GOD AND GOLEM, Inc. (はてなダイアリー倉庫版)

2007-2012まで運用していた旧はてなダイアリーの倉庫です。新規記事の投稿は滅多に行いません。

『ヒーローウォーズ』を遊びました

 3年前から毎年一回のペースで開催している「東京ルーンクエスト会(略称:東京RQ会)」が今年もありました。
 今年は渋谷のカフェで提供している会議室スペースを借りて二卓、立ちました。Mongoose版RuneQuest 2nd Edition(mallionさんの紹介:http://d.hatena.ne.jp/mallion/20100709/p2 ,alley cat さんのMRQ2eレビュー:http://www.purple.dti.ne.jp/alley-cats/glorantha/mrq2/mrq2_00.html)と、『ヒーロー・ウォーズ』の二卓です。
 僕は『ヒーローウォーズ』の鮎方さんの卓に参加しました。現在RuneQuestの製品には、Mongoose版のRQ以外に、Issaries.Inc(=グレッグ・スタフォードによる版権会社)から版権を引き受け、Moon Design Publicationsによって制作されている HeroQuest 2nd Edition があります。今回遊んだ『ヒーローウォーズ』は、そのHQシリーズの最初の流れに位置するゲームです。日本語版は2001年11月30日に翻訳出版されました(翻訳チームは桂令夫&グレイ・ローズ)。HW・HQ系列のメカニズムは、BRP(Basic Roleplaying)ベースのRuneQuestよりもよりヒロイックな活躍ができるよう、パラメータの作り方がより自然言語の側に寄ったもので、今遊んでも新鮮なアイディアがたくさん含まれています。

ヒーローウォーズ―英雄戦争 (TRPG series)

ヒーローウォーズ―英雄戦争 (TRPG series)

 今回は、ナレーター(=HWにおける〈ゲームマスター〉)の鮎方さんが、10年前に制作したという詳細なキャラクター作成サマリーを頒布して下さり、最初の導入がとてもスムーズに進みました。特にこの鮎方さんのサマリーは、HWにおける各カルトの「相」と「下位カルト」をクロス・テーブルで整理するという方法を取っており、「そうか、こういう風にHWのキャラクター作成ルールを要約すればよかったのか!」と学ばせてもらいました。当時は主神格であるオーランスとアーナールダの2つについてのみを整理したということでしたが、これは複雑なグローランサ世界の下位カルトを一覧として提示する時にも有効だと思いました。

 ゲームとしては、オーランス(♂)ヴォガース(♂)、ミンリスター(♀)の三人が、集落を襲う集中豪雨を解決しに出向き、その旅先の森中で英雄的異界探索(hero quest)へ巻き込まれる……という話でした。
 僕は、酒造の神ミンリスターをアーナールダの下位カルトとして採って遊びました。グローランサ世界は基本的にローマ帝国など、中世より昔の欧州をモチーフにしている部分が多いイメージでいるのですが、このミンリスターの持っている《醸造》魔法の中には、《冷えたビール醸造》とか《酒蒸留》とか、「おいおい、それ19世紀までメジャーな酒造りじゃなかったじゃん!(笑)」*1 *2みたいな面白さを“信仰魔法”として楽しみました。
 数値システムとしては、[x山y]*3という20面ダイス処理の段階的スケールアップと、継続判定時のAP(アクション・ポイント)の削りあいという2つのメカニズムを楽しみました。
 HWからHQの流れは、個人的には、T&T*4以来久しぶりに登場した、海外発の「難易度単純化カニズム」と思っています。その日本での系譜は『Aの魔法陣*5や『Rune=Wars』*6(特にR=Wは直系)、『CuteSisterRPG』*7や『ファミリーズ!』*8などにも見られますが、その中でもHWというのはかなり色んな点で先駆けているなあという感想を新たにしました。
 HQ2と現在のHWがどういう点で異なっているかはまだよく解っていないのですが、今後も付きあってゆきたいTRPGシステムだなと感じました。
 グローランサおよびHW系列のシステム理解にブレイクスルーをもたらしてくれたGMの鮎方さんと、会の取りまとめを引き受けて下さった村雨さんに感謝です。

*1:解釈次第だが、筆者は「冷えたビール」という時、「下面発酵によるラガービール」を想像した。そして、ラガービールは、1840年代のチェコで生まれた。参考URL:http://www.asahibeer.co.jp/enjoy/history/europe/german5.html

*2:蒸留酒自体は中世の頃から「ウシュク・ベーハー」と呼ばれるウイスキーの原型、また「アクアヴィテ」という蒸留薬草酒の原型が存在しており、蒸留技術自体は8世紀から15世紀のあいだに各地で発見されたと言われている。しかし、少なくともローマ時代には、スピリッツ一般にあたる技術が今のところ存在したという報告がない。

*3:「山」ないし「w」グローランサ世界のルーン文字の代替。「マスタリー」と呼ばれる

*4:『トンネルズ&トロールズ』は、あらゆる判定を「セービング・ロール(SR)」と「モンスター・レーティング(MR)」に、シナリオ課題の難易度を二元化していると見なすことができる。

*5:TRPG的な発想でデザインできるあらゆる課題を「難易度」と「成功要素」によって二元化したTRPGシステム。書籍『アルファシステムサーガ』(2004年,樹想社)の巻末付録として提示された。そののちにデザイナーの芝村裕吏による度重なるネット上でのサポート・ルール拡張の末、冒険企画局の河嶋淘一朗がディヴェロップメントに関わったことで、『Aの魔法陣 第三版』(2006.05.24,エンターブレイン)以降の現在のデザインが整った(2.5版以降と採る場合もありうる)。

*6:日本のRQユーザの一人であるVampire.Sが、HW・HQ系列のグローランサRPGの設計を見直し、数学的処理を厳密化したもの。日本で編まれた国内ハウスルールの一種と見ることもできるが、独自色が強く、イサリーズ社からフォークした別の設計思想のゲームであると捉えた方がわかりやすい。HW・HQにみられたような難易度単純化の根本思想が、マスタリー[x山y]の記法(事象の強度)にあると仮定した上で、「ルーン強度(記法:[xRy])」というルールを追加、20進法的にグローランサ世界の事象を記述し直した。用語集:http://www.dunharrow.org/pukiwiki/runewars/index.php?definitions

*7:「お兄ちゃん」を射止める「妹」達の争奪戦をテーマとした、2003年発表の同人TRPGシステム。表現される内容の過激さと共に、「お兄ちゃんのヒットポイント」を唯一の課題設定とした実装は、00年代の国産TRPGシステムを考える際に興味深い。先行する考察は伊藤悠,2006,「TRPGでの情報の展開/削りと埋め」(http://d.hatena.ne.jp/ityou/20061113

*8:浅川河畔スタジオが2010年夏のコミック・マーケットで発表した同人TRPGシステム。さまざまな形で主婦/夫業に従事する生活者をPCとする。「衣/食/住/外」の4つのスート(=トランプのマーク)が“奇跡的に”街の事件を解決する役に立ってしまうというメカニズムを有しており、あらゆるシナリオは、各スートの総和によって表される。PCの演じうる役割を絞り込み、難易度をトランプに四元化することによって、難易度一元化デザインの問題だった「ディティールの空白を埋める」という工夫が為されている。