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ルーンウォーズ用語集,R=Wと『Aの魔法陣』に共通する「形式言語」「公理系」の発想

 ここ数日、Vampire.Sさんの話を参考にRuneWarsWikiの過去ログを検索で追ってました。
 RuneWarsのルールは、実質Wikiの検索機能がないと用語定義が追えません。それだとプレーヤーやる分にはちょっと不便だったので、定義集を一カ所に集めたらどうかと思い、やってみました。
 以下がその結果になります。

■RuneWars用語集まとめ
http://runewars.rulez.jp/index.php?definitions

それと、先日Vampire.Sさんから伺った話のまとめもWikiに転載しておきました。

■blogのまとめ/gginc/090904
http://runewars.rulez.jp/index.php?blog%E3%81%AE%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81%2Fgginc%2F090904

 この二つの纏め作業を通じて、いろいろと勉強になりました。
 メカニズムデザイン(メカニズム開発)の過程が2005年あたりからほぼそのまんま載っている。数学の原理についての議論もあり、自分としてはメカニズムのソースコードを読ませて貰っているような気分でした。
 TRPGカニズム批評的な話でいくと、芝村さんの『Aの魔法陣』と比較するととてもおもしろい。ただし、単純に「似ている」とはとても言いがたい。
 まずR=Wにおける〈ルーン強度〉〈相対ルーン強度〉は、『Aの魔法陣』の〈判定単位〉〈根源力〉といったゲーム内用語と比較することが可能です。それは多摩さんの〈ゲームスケール〉の問題とも関わってくる話で、私がこないだ寄稿した『筑波批評2009夏』でのゲーム論文とも密接に関わってきます。しかし、Vampire.Sさんと芝村さんが「ゲームスケール」に対するそれぞれ取った具体的な態度はまったく異なります。
 もう一つは、メカニズムの記述それ自体が、どのポリシーに対してもできるだけフラットであるような、そうしたルールの層を考えているという点がR=WとAマホの共通点。ところが、R=Wは「グローランサ世界の数学的記述」という点で、いわゆるGURPSのような“汎用システム”的な志向を持っているわけではない(それはメカニズムの欠点ではない)。一方でAマホは、〈A-DIC〉という概念を置くことで、自然言語で記述される単語を「定性的ゲーム情報」「定量的ゲーム情報」に組み込めることを提案して、どんなメカニズムともコンパチできるようになったその一方で、R=Wにおいては徹底されているような「メカニズムデザインのための言語のリファレンス」と「メカニズムについての叙述的な解説」との区別が、(シリーズとして展開されているうちに)徐々に曖昧になった。『Aの魔法陣』三版は、既存のルールブックとしては、ルールブックの著述が独特すぎたせいか、主流からの評価があまり高くなかった(「面白さのねらいがわかりにくい」という声が多かった)けれども、私はその「むきだしのゲームデザイン言語」とでも言うべき記述が世に出版されたことを、とても優れた仕事だと思っていました。ところが『ガンパレ篇』になると、一度「むきだし」だったAマホの言語は、数学的な意味を保存された形で隠蔽され、「ガンパレ単体で遊ぶためのわかりやすいルールブック記述」となった。
 当然、一般的な意味で「遊びやすく」「商品価値が高く」「単体として優れている」のは間違いなく後者、『ガンパレ篇』の方です。実際にAマホの基本的なメカニズムは保存したまま、新しい概念をあまり覚えずとも遊べるようなルールライティングがされている。私がもし「単純に読んで面白く遊びやすいのだったら、どっち?」と聞かれたら、一応『ガンパレ篇』を差し出すことになるでしょう。しかし、TRPGを批評的に考える、という観点から見れば、話が変わってきます。どちらが面白い、というのではなく、そもそも「面白さ」を評価する視点が、まったく異なってくるのです。
 『Aマホ三版』と『ガンパレ篇』をR=W的な枠組みから再評価すると、Aマホ三版はいわば「Aマホというメカニズムに共通するメタルールの実装方法と、基本的なルール作成の指針」について記述したもの。それに対して『ガンパレ篇』は、「三版で示されたルールをもとに、『ガンパレードマーチ』というゲームから想定しうる状況を『Aマホ』の数学的構造下で遊べるよう、わかりやすく昨今流通しているルールブックの形式に合わせて記述し、売り出したもの」ということができます。
 したがって、この二つの『Aマホ』は、同じ『Aマホ』の名前を冠しながら、その実まったく異なる位相で提供されているものであり、ひとくくりに、これまで「システム」と呼ぶと齟齬をきたしてしまうようなものです。どれくらい違うかというと、OSとアプリケーション、Wiiと個々のゲームソフトくらい違う仕事だと思います。
 そしておそらく、『Aの魔法陣』のような試みを評価するためには、R=Wのメカニズムデザインにおいてなされたような考え方が非常に有効だろうと思われます。

GMは本節に示した各種メタルールの設計意図を通じて、適切に自分のセッションを切り盛りする――セッションの状況と準備されたシナリオ、およびPLの思惑に応じて、適切な暫定ルールをその都度設計する――必要が生じるだろう。即ち、メタルールは、ルールとして機能する場合以外にルールをプログラムする際のプログラミング言語として機能する場合がある。(Vampire.S,2008,「メタルール解説」

 
 つまり『Aの魔法陣』は、無名世界観という芝村裕吏氏の保持する文芸世界観を再現するためのメカニズムとして設計されながらも、同時に「ルールをプログラムする際のプログラミング言語」としても幾つかの実験が加えられてきた。そして『ガンパレ篇』は、そのプログラミング言語Aの魔法陣」を利用して作られた、本格的な「パッケージソフト」として提示されたものである。そういう風に観察できる(もちろん、『ガンパレ篇』が、タクティカルシミュレーションとしても、伏線構築ゲームとしても面白い試みをしていることは、ここに付け加えておきます)。そして、R=Wにおける〈クーポン環境〉と、Aマホにおける〈A-DIC〉のメカニズムに対する位置づけは、極めて似通っている。

 こうした比較の根拠として、Vampire.S氏と芝村裕吏氏の「ルール」という言葉に対するスタンスの類似があります。以前、まだ『SD-DOJO』という企画があった頃に、芝村氏はこのようにルールを定義していました。

bold;">ルール:『Aの魔法陣』関係の文章において「これはルールです」と記されたすべての文章のこと(それ以上でもそれ以下でもないことに注意せよ)。

[高橋2006]

 これと似たようなことが、実はRuneWarsのメカニズムにも含まれています。Vampire.S氏による〈ターム〉の定義を見てみましょう。

bold;">[ターム]:本文章中で、"[]"によって括られている単語と、それを説明しているその他の言語要素。各[ターム]には、必ずその他の[ターム]による定義が形式的に与えられている。

(definitions(上掲)より抜粋)

 これは、この二人のデザイナーが、それぞれ「ルール」というものについて、「一定の内的一貫性を持つ形式言語の系(system)であること」を目指していることを示唆するものだと私は考えています。芝村氏は〈ルール〉を再帰的に定義することによって、Vampire.S氏は(作業の途上における仮の措置ではあるにせよ)〈ターム〉として定義された言葉が、ゲームメカニズムのために作られた公理〔アクシオム〕のネットワークを形成するように、用語を設定している。

 しかしこれはTRPGシステムというものがそもそも「形式言語」によって出来ている、という前提理解がなければ、なかなか飲み込めません。先日もは少し言及しましたが、Vampire.S氏は

 とを区別している。そして実は芝村氏も、このことについてかなり意識的に取り組み続けてきたと思われます(私のAマホに関連するA-DICを参照)。

 個別のルールが一つの公理系を形成するような、TRPGシステムデザインのためのプログラム言語。そういう水準での〈システムデザイン〉を提案しているこの二つのシステムは、なかなか「商業出版物としてのTRPGルールブック」ではメジャーになりがたいものだと思います。

 しかし私は、今後こうした「ルールブック作成の前提となるプログラミング言語」としての〈メタルール〉(R=W)あるいは〈ルール〉(Aの魔法陣)的なものが、純粋に個々のゲームマスターたちによって引用され、独自の〈テーブル〉(R=W)や「A-DIC」を編纂・保有し、多くのプレイヤーたちを楽しませる。そういう二層構造が徐々に本格化してくるのではないかと思っています。つまり、同じシステムデザイナーでも、「OSを作るシステムデザイナー」と「個々のアプリケーションを作るシステムデザイナー」との役割が、さらに目に見えやすい形で分化してくる。そういう流れが、2004年から2006年くらいにかけて徐々に出てきたように思います。
 芝村氏は、〈第二世代RPG〉の軽量化を目指して〈第四世代RPG〉という言葉を作りました。しかしここでさらに注目すべきは、

  • A.「背景世界の豊かな記述を実現すること」と、
  • B.「それらを、より少ないルールで簡単にゲームデザインするための効率的なキット」

 この両立を目指した二つのシステム(『Aの魔法陣』と『ルーンウォーズ』)が、図らずも「TRPGシステムをデザインするための“むきだしのTRPGプログラミング言語”のような相を併せ持つような、そうしたデザイン思想を持ち込んだことにあるのではないか、と私は思います。
 そうした“むきだし”の部分こそが、私はここ3-5年のあいだ、断続的に『Aの魔法陣』と『ルーンウォーズ』の両方に注目して来た理由だったのかもしれません。私はずっと、「TRPGという営みを成立させる、基礎的なデザイン言語(形態言語,批評言語)」に関心があったのでした。
 私は、この“むきだし”であることを、第四世代的であると呼び直したいと思います。

付録:TRPGカニズムデザインの層

 それぞれの設計思想に、大体こんな感じのズレがあるんじゃないかな、と思います。私が関心がある(そして新たに設計したい)のは、一番上と一番下で、中間あたりのところが一番関心が薄いなーと思います。

カニズムの個々の領域 これまでのTRPGシステムのルールブック Aの魔法陣』のルールブック ルーンウォーズのメカニズム
そのTRPGに参加するインセンティヴの所在 〈ヒーロー志向〉or〈疑似体験志向〉など、特定の物語ジャンルを体験・共同構築する楽しみの提示 何の形であれ〈ルール〉と〈A-DIC〉によってゲームで楽しんで貰うという、GMの「セッションデザイナー」としての責任の明示(=GMの腕次第で面白くもつまらなくもなる) 〈ポリシー〉と〈メカニズム〉の二つを区分し、その上でHeroWars,HeroQuestの〈ポリシー〉を解釈した限りでのより整合的な〈メカニズム〉構築を行うことで、「グローランサ」世界の楽しみを提供すること。
TRPGという営みを成立させるフレームの提供 基本ルールブックの導入解説 〈ルール〉 〈メタルール〉
遊ばれる対象となるワールドの定量的・定性的構築 基本ルールブックの背景設定の叙述 〈A-DIC〉 PCの〈プロフィール〉、GM〈シナリオ〉GMが準備した〈オペレーション〉それぞれの〈アトリビュート〉と〈クーポン〉への読み換え
〈意志決定〉の前提となる情報 ルールブックに書かれた“ルール” ディスカッション:〈ルール〉および〈A-DIC〉のデータ 導入されたすべての〈クーポン〉の集合(=クーポン環境)
判定処理 ルール、データ、GMの裁定 〈成功要素〉の提示に対するSDの裁定 〈判定〉メカニズムの自動的な適用
判定結果 ルール、データ、GMの裁定 〈成功要素〉の抽出結果の提示(サイコロによる判定を含む) 〈判定〉メカニズムの適用による〈クーポン〉の生成
判定後のナラティヴ 判定結果の解釈 抽出結果の解釈 生成された新たな〈クーポン〉をテーブル上で解釈する