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安田均『神話製作機械論』

 ついに手に入れた!
 と思ったのもつかの間、実はそんなに重要な、まとまった論考が入っているわけではなかった!
 ……というのが、手にとって中身を確認した際の感想です。

神話製作機械論

神話製作機械論

 この内容なら、青土社刊『SFファンタジィゲームの世界』の方が、1980年代デジタル/アナログゲーム研究としては革新的な仕事だったのではないかというのが私の暫定評価です(まあ、Amazonでは手に入らないのですけれど)。この著作自体が、『BOOT THE BOOK』という雑誌のゲームレビュー連載記事を単行本にまとめたという性格上、仕方のないのかもしれませんが……これなら素直に『SFファンタジィゲームの世界』を買い直した方がよかった気がしないでもない。
 ただ、この本の良いところは、もう少し別のところにあるかもしれない、とも思います。21世紀に入り、今や「アナログゲーム企業の重鎮」として評価が定まった感のある安田氏が、翻訳家でありながら同時にデジタル/アナログゲーム問わず、英米の「SFファンタジィ的想像力」を精力的に紹介した、オールラウンドな活躍をしていた1980年代が確かにあったということを、この本は教えてくれます。
 当時は『ウィザードリィ』や『ウルティマ』が、『D&D』や『トラベラー』や『ルーンクエスト』と分け隔てなく論じられる時代があった(少なくとも、安田さん自身にとっては)。そのような議論ができる“空気”を色濃く残した本として、この著作は読まれるべきなのかな、と。

 ところで、最近回転翼さんや牡牛さんが試みている、「TRPG前史時代のゲームデザイン技術からTRPGデザインの文脈を基礎付ける」というアプローチは、まさにその時代の生き証人として活躍してきた安田均多摩豊の批評著作などで示された「1970年代から1980年代後半までのアナログゲーム史」と照合されれば、今よりさらに洗練された一つの大きな「仮説」が形成されるのではないかと思います。TRPGデザインについて論じるには1970年代前半のゲームデザイン史の解明が必要不可欠で、その国内での仕事の多くは、(デジタルゲームの紹介も一手に引き受けた)安田・多摩両氏が引き受けていたように私は思います。*1

■回転翼,2008.09.08「アーンソンのプレイリポートから――TRPGにおけるデザインとしての戦闘と、テクニックとしての物語」
http://ugatsumono.seesaa.net/article/106183351.html
■牡牛,2008.09.08.22『TRPGのシステムデザインの失敗――TRPGとSLG その3』
http://www.scoopsrpg.com/contents/orshi/orshi_20080822.html

 実は私は、着実に取り組めるTRPG史の歴史実証主義的なアプローチを後回しにして、認知科学的・社会科学的なアプローチでずっとゲーム(TRPGに限らず)について考えているところです。なかなかそちらの方は(資料集めだけで)ほとんど手が着いていない状態です。それだけに、お二人の今後の展開には、「一人の読者」として、とても期待しています。

資料編(1970-1980年代SFファンタジィゲーム研究のための著作リスト,略記につき原著年は省略)

 私がTRPG史について整理するために、入手したり読解したりしながらも、そのまま持ち腐れている著作のリストです。どうぞご利用ください。因果関係が微妙なものについては、注釈で補足をしてあります。
 

*1:一部、中沢新一のゲーム論などもあるが、それはまた別の話。

*2:ハッカー文化とSFファンタジィ文化がなぜ関連するのか? ということについては、以前このBlogのエントリでも話題にした。→「小論文:TRPGとカウンターカルチャーの関連性についての論証Comments」

*3:1960年代アメリカカウンターカルチャーの流れを日本語で追う場合に使いやすい文献。

*4:デジタルゲームにおける物語を扱った本。MMORPGの前身となる「マルチユーザーダンジョン(=MUD)」についての言及がある。