〈セッション〉における2つの相─〈イマジナリィ・ボード〉の進展(2)
先日、TRPGゲーマーが挑戦可能な活動目標を、大まかに5つのカテゴリに分けました。
その上で「上級者になる」とか「上達する」とかを、ゲイリー・ガイギャックスが提示した17項目*1以外で言うとするならばどうなるか、私なりに考え、10ほどの事例を示しました。
そこで、acceleratorさんから以下のような質問を受けました。
4番のセッション目標と他のものとバランスが気になります。
目標設定の事例においてはかならず4番が含まれていますし、とりわけ大事なもののように思われるのですが。
(中略)
何をもって分けているのか、もう少し補足説明をお願いしてもよろしいですか?
これについて、補足します。
ホンネを言いますと、私は前のエントリで、「セッション」と「対外活動」を分けたバージョンを、一足飛びで述べたかったのです。
でも、それがacceleratorさんに対しては不要だったかもしれません。ですから、そのバージョンも公開しておきます。
■TRPGゲーマーの活動リスト・6分類版(内外2カテゴリ×3者)
この表を見ていただけるとわかるように、〈システムデザイン〉〈マスターリング〉〈プレイング〉の三者は、〈セッション〉&〈共同ゲームデザイン〉のもとでは平等である、という立場に私は立っています。
しかし、それはあまり常識的ではなさそうだな、と思い、とりあえず5分類だけを示すことにしました。
ちなみに、この〈セッション〉という場を媒介として、〈共同ゲームデザイン〉に取り組むという発想から、〈イマジナリィ・ボード〉(高橋2005)という造語が生まれました。TRPGゲーマーの「内的活動」とは、要するにこの〈イマジナリィ・ボード〉を「つくる楽しみ」と「作ったボードを運営する楽しみ」の2つを行きつ戻りつする作業を、〈システムデザイン〉〈マスターリング〉〈プレイング〉の3つの立場からそれぞれ味わうことになるわけですね。
ここしばらくは〈イマジナリィ・ボード〉という言葉を使い控えていたのですが、*6、TRPGゲーマーの内輪で活動する理由を要約する言葉として、やはりこれは便利だな、と思います。
■〈セッション〉の2分類─〈共同ゲームデザイン〉&〈ゲーム〉
- 〈共同ゲームデザイン〉パート*7
- 〈システムデザイン〉によるポリシー/メカニズム*8の設計
- 〈マスターリング〉による〈システム選択〉〈シナリオ作成〉〈セッションハンドリング〉
- 〈プレイング〉による〈背景世界〉への介入・提案・変更・改竄など
- 〈ゲーム〉パート
- 〈システムデザイナー〉は、直接的には何もできない。
- 〈ゲームマスター〉は〈セッションハンドリング〉を介して〈ゲーム〉を提供しつつ、〈共同ゲームデザイン〉パートの成果を逐次投入していく。
- 〈プレーヤー〉は〈セッション〉を介して〈目標の多層構造〉に配慮した〈意志決定〉に挑戦しつつ、〈共同ゲームデザイン〉の過程をも楽しむ。
そして、今回のまとめとして得られた構造表は以下。
これがacceleratorさんに対する最終的な回答となります。
■「TRPGゲーマーの活動目標」整理(2008.02.29最新版)
- 内向けの活動─〈イマジナリィ・ボード〉共同編纂ゲームとしての〈セッション〉
- 〈共同ゲームデザイン〉パート*9
- 〈ゲーム〉パート
- 〈システムデザイン〉:(何もできない)
- 〈マスターリング〉
- 選択した〈システム〉特性の説明
- 準備した〈シナリオ〉をもとにした状況提示
- 〈セッションハンドリング〉(行動宣言に対するレスポンス、裁定など)
- 〈プレイング〉
- 〈目標の多層構造〉の把握
- 〈課題の達成〉を目指す
- 広義の〈ロールプレイング〉を実践する
- 〈役割分担〉を果たす
- 狭義の〈ロールプレイング〉を行う*11
- 〈狙いの再現〉
- 〈意志決定〉
- ☆〈葛藤〉
- ☆〈アカウンタビリティ〉
- ☆〈結果に対する責任〉
- ▲〈選択肢〉
- ▲〈決断〉
- 外向けの活動─TRPG普及のための〈ファシリテーション〉技術の向上*12
だいたいこんなところですかね。
そして前回のエントリと同じく、私達TRPGゲーマーの多くは、この「一部分」を達成するために、いろいろな目標を立てることになるでしょう。
ここで再び「5大目標」に戻ると、「3つの立場の選択」と「内外2つへの働きかけの比重」の組み合わせ(3×2=6つの活動領域)によって、私達TRPGゲーマーの目標は定まるということが言えそうです(そしてそれは、このエントリの一番最初に簡潔に示してあります)。
ばらして並列すると5大目標、構造化すると「3者それぞれの目標・2つの活動領域」になります。どちらがわかりやすいかはお任せしますが、私は5つの方が構造について言及しなくて済むぶん、スローガンとしては通りがいいように思います。それに、〈セッション〉と〈ファシリテーション〉は、3者それぞれで重複する部分が多いので、(上を見てもわかるとおり)冗長になりがちです。また、
〔システムデザインに関しては、それを〕理解していればアマチュアのTRPGゲーマーとしては十分であり、必ずしも制作物を提示する必要はない。それは基本的にプロの領分である。
という、システムデザインとアマチュアの活動に関する線引きが、2×3分類ではちょっとわかりにくくなってしまいます。この線引きは、高橋個人にとって非常に重要なので、私は「5大目標」の方が何かと便利だなあと思っています(もちろん、他の人はまた違ってくると思います。たとえば何かマニュアル等、目次を立てて包括的に論じる場合は、むしろ6つに分けて論じた方がよいでしょうね。)
それにしても、TRPGに関して包括的に論じるためには以下の3つの章に分けて論じたらすっきりしそう。
この3つに分かれるんだなと思った。
うわー、絶対こんなの一人でまとまるわけがねえ。
誰か手伝ってくれないかなあ。どれでもいいから。
*1:
*2:「ポリシー策定/メカニズム設計/ディベロップメント/ルールブック作成/持続的サプライ&サポート」の5つか。
*3:〈システム選択〉〈シナリオ作成〉〈セッションハンドリング〉の3つ。残り2つはファシリテーションに属するものとして考える。また、これは最近他の方から影響を受けた考えだが、この3つの前に〈運用コンセプト〉とでも呼ぶべきものがなければ、方針は定まらない。これを入れると〈マスターリング〉とは「1.〈運用コンセプト〉の決定→2.〈システム選択〉→3.〈シナリオ作成〉→4.〈セッションハンドリング〉」の4段階(およびこの4つの繰り返しによるセッション・サイクル)と整理することができるのではないかと思う。
*4:「〈目標の多層構造〉に対する〈意志決定〉」が、TRPGにおける〈プレイング〉である。。より詳細に言うと「〈課題達成〉〈役割分担〉〈ロールプレイング〉〈狙いの再現〉の4つが相互に矛盾する複雑な状況の中で、〈葛藤〉しつつも〈アカウンタビリティ〉を踏まえながら、特定の〈選択肢〉を〈選択/決断〉し、その後に必ず〈結果に対する責任〉を引き受けること」となる。わかりにくい? すみません。その場合は、『ロールプレイング・ゲームの批評用語』前半部分の構造表を見ればすっきりさっぱりまとまっています。Blogのトップページリンクからも辿れますので、そちらを参照してください。
*5:具体的には〈ヒューマン・アフェア〉&〈啓蒙活動〉として馬場秀和がまとめた。
*6:なにしろ、2005年の、まだ術語の整理も終わっていない頃にぶんまわした言葉なので、ちょっと最近恥ずかしくなっていたんですよ。でも、まあ、ここまで議論が詰まってきたならよいかな、と。
*7:「セッションデザイン」と読んでもいいかもしれない。
*8:例によってVampire.S氏の議論を参照している。
*9:G.A.FineにあやかってShared Gamedesinとか書いてもよいかもしれない。
*10:馬場(1996-7)では、これも「システム選択」の項目に組み入れられていたが、これは事前に分けて入れておくべきだろうと今回考えた
*11:これは〈制限/情報〉としてのことであり、〈キャラクタープレイ〉のような、声真似・身振りのような、「身体演技」に属するもののことではない。ただし、「非常に理に適った決断」を広義の「演技」と含めた場合の、発言としてのロールプレイングは、〈制限/情報〉に対する〈アカウンタビリティ〉を満たすものとして評価されるべきだろう。これについては俵ねずみの論文を参照のこと。
*12:私は、これが「外に向かう言葉」──TRPGが危ないカルト集団のゲームであるわけではなく、また引きこもりのオタクによる気持ち悪いごっこ遊びでもない、青少年が遊んでも問題のないちゃんとしたゲーム文化であるという内容をPublic Relation〔戦略広報〕を通じて持続的に伝えていくこと──にあたるのではないかと思う。もちろん、これは、日ごろの仲間がどんなゲームを求めているか、注意深く意識を向けるという点で「内向け」でもあるし、TRPGに興味がありそうな人に対して適切に対応するということで「境界的」でもある。
*13:F.E.A.R.のシステム設計はこの特性を多く備えている。この点については個人的には賞賛と批判の両方の考えを持っているが、この方法によって国内TRPG文化の成熟を図ろうとしたF.E.A.R.の貢献は無視してはならないだろう。しかし、本当にTRPGの文化が、システムデザインレベルでの啓蒙を必要としないほど成熟した暁には、このようなかたちでのシステムデザインは必要とされなくなるだろう。その点で、今のF.E.A.R.の「教育的デザインコンセプト」の部分(特に・経験点システムの部分)は、国内TRPGの現場に関するいろいろな課題を示唆してくれている。
*14:特に、顧客に対して
*15:ゲーマー同士だけでなく、TRPGを知らない人も含めた多くの人に
*16:まあ、当然でしょう。
*17:ゲーマー同士だけでなく、TRPGを知らない人も含めた多くの人に
*18:まあ、当然でしょう。
*19:これは「社会的に有用」だ、というのとはひとまず違っていてもかまわない。たとえば、会話分析という学問が社会学の一部門にあるが、そこでの一般的な問題を解決する際に「TRPGが有用だ」となれば、それは別に世間様に別に意味がほとんどなかろうと「有用」ではあるのだ。
*20:私が今後やっていくのは主にコレなんですが、今回のエントリで喋ったのは全然これじゃありません。
*21:今日、上にプロットしたこと全部になります。「5大目標」のための指針を詳細に論じつくせば、誰も文句はないでしょう。ところでおそらく、TRPGゲーマーの誰もが納得するだろう「理論」というのは、この「実践のための理論」が完成した時だけで、上二つは何も関係がない。でも、この意味でのマニュアルを作るためには、上2つの研究も絶対に必要です。それがもどかしいですね。そして、一応このBlogでは、「1.TRPG史料編纂」や「2.学術的研究」の可能性も示唆しつつ、「3.実践活動」を包括的・体系的に整理するための準備を継続的にやってきたわけなんですよ。