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岡和田晃『アゲインスト・ジェノサイド』(読了直後の感想)

 id:Thorn さんこと、岡和田晃さん、待望の単行本です。

ガンドッグゼロ リプレイ アゲインスト・ジェノサイド (Role&Roll Books) (Role & RollBooks)

ガンドッグゼロ リプレイ アゲインスト・ジェノサイド (Role&Roll Books) (Role & RollBooks)

 これほどまでに「リプレイが面白い」と思ったのは、どれくらい振りなんでしょうか。
 読んでいて(特に“読み進めるうちに”)、何度も心揺さぶられました。TRPGの現場を、こういう風に描き直せたのかと、ドキドキしました。
 それは「自分がよく知っているTRPGの風景」でありながら、「これまで読んだどのTRPGの商業リプレイ」とも違っていました。 読んで、なんの違和感もない。「これだ、これなんだよ」と、何度も心の中で喝采しました。
「これこそが、自分が十年以上継続的に遊んでいたTRPGの姿を、できるだけ丁寧に切り出そうとしてくれた製品だ」と、言えます。
 ウン十年選手の方にも、まだTRPGをやったことのない方にも、読んで欲しいです。もしかしたら、合わないと思うかもしれません。つまらないと感じるかたもいらっしゃるかもしれません。その可能性を、完全に否定することはできません。
 でも、それでいいのです。私は、おそらく生まれて初めて、「この本の美学と一緒くたに自分の品性が否定されようと、何の後悔もない」と言い切れる国産TRPGリプレイを、読ませて貰えたのです。
 このリプレイが、もし誰かに「つまらない」と判断されたとしても、それでも私はかまわず全身全霊でこのリプレイの“佇まい”を、肯定します。その判断が、印象主義画家を「へたくそ」と断定して、結局歴史的に敗北した古典主義絵画批評家のような末路を辿ったとしても、私は絶対に後悔しない。*1
 そもそも何かを肯定するとは、そういうことだと思っています。肯定するとは、作者がどう考えているかなんて無関係に(作者にとってははなはだ迷惑な話かもしれませんが)、自分の身を賭して、何かと一緒くたに評価されることを選ぶということなのです*2。そしておそらく、岡和田さんのリプレイは、決して敗北しない。何かに勝つ、というわけではありませんが、いずれ確実に「その位置を占める」リプレイの一つになってくれる。
 私は、その賭けに出たいと、本気でそう思います。TRPGリプレイに対して、そのような姿勢を取れる日がついに来たことを、私は心から幸せに思います。
 ぜひ、買って、読んでみてください。

*1:彼の師匠筋にあたる方の本より、quoteさせて戴きました。

*2:もちろん、批評する側が、自己と作品を分けていることは当然です。批評行為はファッションでも政治ゲームでもありません。しかし、その誤解を含めてなお決断すると言うとき、そこには一点の曇りもない肯定が必要です。