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林達夫・久野収『思想のドラマトゥルギー』

思想のドラマトゥルギー (平凡社ライブラリー)

思想のドラマトゥルギー (平凡社ライブラリー)

 林達夫久野収、博覧強記の知識人同士が、半世紀前に広がっていた日本の〈教養人〉の風景を、対話を通じて見事に立ち上げています。
 竹内洋(2003)*1が指摘するように、わたしたちはすでに〈教養主義〉の効力をほとんどアテにできない時代を生きていますが、それでも鶴見俊輔羽仁五郎清水幾太郎といった、当時の知識人を代表する一流の名前が、彼らのやりとりの中で英雄列伝のごとく登場するさまは、ほんとうに〈教養〉が価値あるものとして認められていた時代の薫風を感じ、圧倒されてしまいます。こういう時代が確かにあったのだと。
 こういった本を紹介した時によくりがちなのが「教養の復古を!」といった懐古趣味ですが、私はそういうのに関しては、ブッチャケアリエネエ、と思います(それを簡単に口にする人は、〈文化的資本〉とは何かをよく理解していない)。しかしその代わりに、彼らの実力に一歩でも近づけるような知者でありたいと、私的な感慨を抱くことくらいは、許されてもよいのではないかと思いました。
 〈教養〉については、もう他者に押し付ける気にはなれないですね。武道やらスポーツやらと同じで、やりたい人がやればいい、というのが私の意見です。やれば必ず見返りがあるってものでもないですしね。

*1:竹内洋,2003『教養主義の没落─変わり行くエリート学生文化』中央公論新社