GOD AND GOLEM, Inc. (はてなダイアリー倉庫版)

2007-2012まで運用していた旧はてなダイアリーの倉庫です。新規記事の投稿は滅多に行いません。

『モノトーン・ミュージアム』のマスタリングをしてきました

 今月は一ヶ月準備して、『モノトーン・ミュージアム』のシナリオを作って遊びました。
『モノトーン・ミュージアム』とは、イラストレータの すがのたすく さんが作った、現在PDFルールブックとして無料公開・頒布されているオリジナルRPGで、F.E.A.R.のStandard R.P.G. System(http://www.fear.co.jp/srs/index.htm ,SRSと略)を基底としたものになっています。

『モノトーン・ミュージアム
http://www.fear.co.jp/monotone/

 元々は「背景世界が面白そうなので、ぜひGMして欲しい」と言うリクエストに応えて「OK、マスタリングしまっせ」と引き受けたものの、最終的にはプレイグループ内でかなりのルール解釈や補完を加えた上での運用になりました*1。自分はこの頃『T&T』や『HeroWars』、『Aの魔法陣』みたいな、自然言語のゲーム的解釈を重視するゲームデザインの可能性*2にばかり頭が行ってたもので、特技表重視のゲームに思考を切り替えるまでに物凄く時間がかかってしまいました(笑)*3。PL陣の協力がなかったらたぶん巧く行ってなかったと思います。感謝することしきりです。幸い、それなりのゲーム的手応えを感じて貰えるシナリオになっていたようで、安心しています。
 春先に、SRSの一つである『天下繚乱RPG』に「データを読み込むこと」の面白さを再発見させてもらったのですが*4、今回は「SRSを使って、独自色の濃い世界の描写をするとはどういうことか」ということを論点とし、『モノトーン』の示すデザインコンセプトを基に様々なアイディアを発展させていくことができました。その実りが多い回になったかなあと個人的に思います。また『モノトーン』は背景世界のデータへの反映の仕方が、他のSRSのアプローチと全然違って、そこが面白かったですね。
 ちなみにシナリオ自体は、其達〔それら〕や“筐体型の海”のような、他のゲームにはあまりない設定を活かして、地図内を旅するというギミックを手続き化したものになりました。

  • PERT*5フローチャートを作る
  • 他SRSからデータを引っ張ってくる際のレギュレーションを取り決める
  • 事前にキャラクターを作ってもらってから、セッショントレーラとハンドアウトを設計する
  • FS判定の使い方を利用して、クライマックス戦闘を謎解きに近い手応えに実装する

 などをしましたが、これは他のマスタリングでも結構応用できるなあと感じたところでした。旅ゲーを作るにあたって、個人的には『T&T』『Mage:the Ascension』『りゅうたま』『深淵』『シノビガミ参』『Aの魔法陣』あたりは物凄く参考になりました。後、TRPGシステム以外での参考としては村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』,森見登美彦四畳半神話大系』,藤原カムイロトの紋章』,スタジオジブリもののけ姫』あたりを思い出しながら作っていた。特に村上春樹の「世界の終わり」は、背景設定の本質的部分と強く共鳴しているだろうと思い出し、シナリオ設計前にさらっと読み返したくらいです。id:Thornさんが以前『季刊R.P.G.』3号のコラムで述べていた「村上春樹TRPGする」というアイディアも、今回とても役に立ちました*6
 来月以降は暫くGMの予定がないですが、夏コミで買った『ファミリーズ!』という同人TRPGは、ぜひGMやるために読み込み始めたいところです。

マスタリングの際に参考にした作品

シャドウラン 4th Edition (Role&Roll RPGシリーズ)

シャドウラン 4th Edition (Role&Roll RPGシリーズ)

シャドウラン 4th Edition 上級ルールブック ストリート・マジック (Role&Roll RPGシリーズ)

シャドウラン 4th Edition 上級ルールブック ストリート・マジック (Role&Roll RPGシリーズ)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

天下繚乱RPG (Integral)

天下繚乱RPG (Integral)

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

トンネルズ&トロールズ 第7版 (Role&Roll Books)

トンネルズ&トロールズ 第7版 (Role&Roll Books)

りゅうたま

りゅうたま

もののけ姫 [DVD]

もののけ姫 [DVD]

*1:特に、ゲームの目玉である紡ぎ手の縫製能力については、GMの独自運用に委ねられている部分が多いので、かなりプレイグループ内で話しあいました。最終的には、GMの好きなShadowrunの武器焦点具ルールやアストラル戦闘の発想を持ち込んでみましたが、これも最適解ではないだろうとは思っています。

*2:これがこないだ言ってた、「symbolic dataからindexical dataへ」というような話の元ネタになっています。設定情報の束から、行為判定系に関連しそうな変数をどのように見いだし、裁定に取り込んでいくかというアプローチですね。

*3:こちらが、「indexical dataからsymbolic dataへ」という方向性ですね。定義された変数を行為判定系とひとつひとつ関係づけることを通じて、そのRPGのゲームデザイナーがどういう世界、どういう物語的帰結を志向し肯定しているのかをじっくり推論するようなアプローチです。

*4:FEARのゲームに慣れていない向きにとっても、『天下繚乱』は買いです。数値データや特技の構造がとても洗練されたつくりになっていますし、遊べる状況設定も色んな投錨の仕方がありえます。今は小説でも冲方丁天地明察』などが人気ですし、江戸ものをカジュアルなアプローチで語り直すにはとても魅力的なゲームデザイン・ツールではないかと感じているところです。今年は『シノビガミ 参』と合わせて、国産TRPGデザインが一つの転換点を迎えているのではないかと思いますね。凄く好い時代になったなあと思います。

*5:土木・建築系などで利用されている、作業工程を「結節点」と「矢印」と「作業時間」の組み合せで記述・考案するプランニング技術の一種。とても便利なので、KJ法MECEと合わせて利用している。

*6:岡和田晃,2008,「〈地図〉を携え、〈地図〉の彼方へ」『季刊R.P.G.』4: 26-33.なお、この『季刊R.P.G.』4号は地図特集でした。会話型RPGにおいて空間を扱うことについてのさまざまなトピックが盛り込まれており、今でも折りに触れ読み返します。4号で終わってしまったのが残念でならない。復活しないかなあ。