GOD AND GOLEM, Inc. (はてなダイアリー倉庫版)

2007-2012まで運用していた旧はてなダイアリーの倉庫です。新規記事の投稿は滅多に行いません。

二重マッピング法――『ベアダンジョン』(Dungeons of Bear)7版対応におけるマップ提示の工夫

 昨日から、『トンネルズ&トロールズ』初版時代からある有名なデスシナリオ『ベアダンジョン』のマスタリングをしています。

ベア・ダンジョン (現代教養文庫―T&Tシリーズ)

ベア・ダンジョン (現代教養文庫―T&Tシリーズ)

 Drivethruで売っているもの(http://rpg.drivethrustuff.com/product_info.php?products_id=65655&filters=0_0_0_31801)の日本語訳が、上に挙げた社会思想社版です。ただしこれはT&T5版(社会思想社の文庫版)に準拠したデータ記述になっているので、能力値や運用などは7版にコンバートする必要があります。今回『ベアダンジョン』を選んだのは、5版と7版、あるいは日本のHT&T展開や未訳の7.5版(http://rpg.drivethrustuff.com/product_info.php?products_id=59112&filters=0_0_0_31801)のルールを、T&TのGMとしてどう統合していくかを実際に把握したいという意図もありました。7版でも、5版の『ベアダンジョン』遊べるよ、ということになれば、過去の翻訳物の遺産がむだにならないわけで、T&Tファンにも有用かなと思っています。

 僕のT&Tのインストラクションの仕方は、(T&Tの師匠の影響もあって)既にハウスルールがかなり搭載されているのですが、それはいずれまとめておきたいと思います。今回は、ほかのゲームにも使えそうなtipsを一つ紹介します。
 とりあえず、〈二重マッピング法〉とでも呼んでおいた方がよさげなので、そういう呼び方で記述していきます。ここでいうdoubleとは何かというと、プレーヤーに書いてもらう「手書きマップ/手書きマッピングと、GM自身が別途に切りばりで示す「オートマップ/オートマッピング」の2つのことです。
 過去に行われたマップ提示法と比べて何か本質的に新しいことをしているわけではないですが、ここ1年くらいで入手できるようになった「テープのり」と呼ばれる文具や、TRPG書籍に到来している電子書籍ブーム、またセブンイレブンコピー機でも安価で可能になっているpdf印刷サービスなどを活用しつつ、システマチックに運用を最適化することが、2010年時におけるこの手法の着眼点になっています。
 準備する道具とその実運用について、分けて解説してゆきましょう。

用意するもの

  • ハサミ

普通のハサミです。

 最近普及してきたテープのりです。〈二重マッピング法〉における最重要アイテム。

 こちらも非常に有用ですので、しっかり貼るタイプと併せて買いましょう。Amazonではなぜかバラ売りしてませんが、文具店やLoftの店頭で手に入ります。

  • シナリオの完全なマップ(B4サイズ)

 たとえば僕は、英語版『ベアダンジョン』の4ページぶんのマップをそのままコピーしました。今ならセブンイレブンゼロックスプリントにUSBメモリを挿せば、pdfファイルは1枚10円で白黒コピーできてしまいます(参照:http://www.fujixerox.co.jp/solution/multicopy/02.html)。

  • スケッチブック(B4サイズ)

 マップ用スクラップノートとして利用します*1。画用紙くらいの厚みがなければ、この用途には耐えません。スケッチブックが携行に適さなかった場合、しっかりした厚みのノートで代用してください。
 B4を推奨するのは、これが大きめのサイズのかばんに入るギリギリのサイズであるためです。
 GMの持つ鞄にB4が入らない場合は、いっそA3サイズのスケッチブックを大きな紙袋などに分けて持ち運ぶか、A4より小さなサイズで同様の手法をカスタムするかを選択してください。
(注意:このマップ提示法は、このB4スケッチブックのサイズに沿って、各文具のサイズが最適化されています。ほかのサイズを用いる場合は、それに併せて紙のサイズを調整してください。)

  • 5mm方眼のあるノートパッド

 代表的なものを2つほど紹介しておきます。TRPGに限らず、古典的なマップ有ロールプレイング・ゲームには必須の外部ツールです*2
 B5かA4のどちらかを推奨します。B5だとB4の規格に併せた保管が楽になります。A4だと、ほかの資料との組み合わせによる保管が楽になります。一長一短です。以下に提示するのはどちらもA4のノートパッドです。注意してください。

オキナ プロジェクトペーパー A4 5ミリ方眼 100枚 PPA45S

オキナ プロジェクトペーパー A4 5ミリ方眼 100枚 PPA45S

  • 十分な広さのセッション用テーブル

 今回の手法は、サイズの狭い机には対応していません。オフロード走行(=セッションが困難な状況下でセッションを運用すること)をする際は、適宜、文具の大きさを小さくしてください。

 もちろん、手書きマップ用の筆記具も必要です。シャープペンシルは、製図用の高いものである必要はありません。

運用コンセプト

  • マップを書く楽しみをすでに十分知っている上で、「マップを書き損ねることによる悲喜こもごも」についてはある程度十分に堪能したとテーブル単位で合意がある。
  • Wizardryリメイク版における「オートマッピング」のような効率性を求めている。
  • 未探索範囲のある/なしを公開情報にしても構わない。あるいは、全ての領域を探索する、ということを臨み得ないほど仕掛けが多く、全てを巡ろうとするとまったく終わりの見えないダンジョンであり、そこまでやる必要はないだろうという共通認識が成立している(例:『ベアダンジョン』。ベタにやると、命がいくつあっても足りない)。

 これらの条件がある時、以下に示すマップ提示法は、コンセプトに沿ったものとなります。

実運用(1)――手書きマップのインストール

 GMはまず、「レポートパッド」をPLの前に一枚、配布します。
 レポートパッドの紙面には、パーティの状態にあわせて、視界内に収まっているだろう状態までを示します。

実運用(2)――オートマップのインストール

 次に、B4画用紙を一枚準備します。そしてそこに用意していたシナリオマップ(未探索範囲が見えないようなもの。白地図など)をハサミで切り出して、ドットライナーのしっかり貼るタイプで糊付けし、提示します。

実運用(3)――マップの二重更新

 パーティはPCを前進させます。その際、探索の正否に応じて、「手書きで書かせる」か「追加のマップをハサミで切り出す」かを選択します。
 ある程度踏破したと言える場所は、バラバラだったはずのマップの断片が順次画用紙の上に糊付けされていきます。
 まだ踏破されていない場所、謎がまだまだ沢山ある場所については、手書きマップによる抑圧的な状況が続きます。
 パーティは、手書きマップにも、オートマップにも、好きに追加の書き込みを行なうことができます。

実運用(4)――マップの拡張

 5mm方眼では、既に準備したオートマップと違い、マップの書き込みが終わらなくなる場合があります。その場合、紙から記述がはみ出すこともあるでしょう。
 その場合は、5mm方眼用紙にドットライナーを貼り付け、マス目に併せて新しくまっさらな用紙を貼り付けてください。もちろん、GMは後の保存や持ち運びを考えて、ある程度貼り付け方を工夫する必要はあると思います。またバラバラにする場合、「はってはがせるタイプ」を用いるのもよいでしょう(付箋のようにはがして解体できる)。

実運用(5)――マップの保存

 マップゲームはどうしても時間がかかります。ゲームが途中で終わってしまった場合、マップが散逸しないよう保管しておく必要があります。
 オートマップの方は簡単です。GMがB4スケッチブックの中に挟んで、次回のセッションまでに保管しておいてください。
 手書きマップの方は若干困難です。マップがB4より広大になった場合、オートマップに収まらない可能性があります。ドットライナーの「はってはがせるタイプ」の使い方を工夫したり、不要な空白部分をハサミで切り出してなんとか収まるようにしたり、色々と努力してみてください。
 もし、サイズの収まりがよさそうならば、そのままドットライナーのはってはがせるタイプを使って、B4画用紙に貼って保存してもよいと思います。

実運用(6)――マップの再開

 次のセッション時に、スケッチブックから「手書きマップ」と「オートマップ」の両方を取り出して、パーティの探索場所を確認してください。それから、前回と同様の運用を繰り返します。

 以上で〈二重マッピング法〉の手法説明は終わりです。
 スケッチブック、ハサミ、5mm方眼、ドットライナー二種、場合によってはpdf出版のシナリオやコンビニのコピー機サービスなどと組み合わせれば、ある種のマッピングの時間を効率化し、ダンジョンの仕掛けそれ自体に集中できるようになります。

二重マッピング法によって損なわれるもの

 二重マッピング法は、テーブルの合意に沿って運用されなければ、むしろダンジョン系シナリオの楽しみを奪いかねないものでもあります。以下の条件にあてはまりそうな場合は、古典的な手書きマップに一本化するか、マッピングをより抽象化した〈システム選択〉を行なうことも考慮に入れてください。

  • 公式シナリオのあるマスタリングならともかく、完全自作であることも多いだろう。その場合、マス目に対応した原型をつくる手間がかかるので、汎用性という点では若干難ありのテクニックである。
  • 5フィート四方にある程度の幅を必要とするD&DやT&T*3では、準備したオートマップの大きさより、手書きマップの大きさの方がしばしば上回る。実際のマッピングの状況を事前に考慮しなければ、マッピングしきれないほどの巨大なダンジョンがテーブルに開示されることになりかねない。
  • そのマップのその部分に関しては概ね調査し終えた、というメタメッセージを公開情報に含めてしまう場合がありうる。新規マップで手書きなうちは「何かがある」ことはわかってしまう。また、それにもかかわらず先へ進んだ時に空白地帯が出来た時や、ワープ装置などでマップに飛び地ができた場合の例外処理などに、この二重マッピング法は対応しきれない場合があるだろう。

 こうした難点がありますが、もしかしたら運用のちょっとした工夫で解決できるかもしれない、とも思っています。
 空間を扱う国産RPGは、80年代までの古典的マッピングの煩雑さをどんどんと新しいメカニズムに置き換えることで進歩していったという側面が大きいと思います(僕も、その恩恵をしばしば受けています)。
 しかし一方で、こうしたGM側の工夫によって、案外四半世紀前の古典的マップゲームも近代化できるんじゃないかな? と思って、この手法を編み出してみました*4
 家に埋もれているクラシックTRPGシナリオを再演してみる際、活用してみてください。
 

*1:このあたりの技術は、立花隆『知のソフトウェア』や野口悠紀雄『「超」整理法』における、なんでもBやAで規格化・保存・管理してしまう発想に影響を受けています。

*2:この点、『世界樹の迷宮』シリーズは素晴らしかった。『世界樹の迷宮』は、プレーヤーの側が攻略の便宜上、外挿しなければならなかったマッピングの魅力を、ソフトウェアの内側に持ってきた。

*3:3e以降のD&Dはグリッドマップ戦闘という特性による。T&Tは、武器の長さや乱戦というゲームメカニズムの要請が、ダンジョンの通路の幅をどうしても広げずにはいられないという特性による。ちなみに僕のT&T運用では、「幅5フィートしかない直線通路では、よほどSR判定に成功しなければ乱戦の前提が崩れ、1対1戦闘になる」という裁定基準を持っています。

*4:とはいえ、実際に思いついたのは前日にマップを準備する段になってからですけれども……ともあれ、古今東西の優れた作曲家に応答するためには、演奏技術もどんどんシステマチックにしていった方がいいと思うんですよね。