ロード・ブリティッシュの伝記として――『ダンジョンズ&ドリーマーズ』(デジタルゲーム史初期年表付)
更新履歴(最終更新090331_Tue)
まとめ人の関心に従って
- アーケードゲーム関連(ピンボール含む)
- 主要なアナログゲーム(モノポリー、ディプロマシー、D&Dなど)
- 国産ゲームのうち、RPGとADVに関連するゲーム
- 日本のデジタルゲーム史に関連するもの
- ハッカー文化とも関わる範囲でのデジタルゲームの革新に関わる作品
を追加した。
なお、2003年以降のゲームについては、重要であっても登録していない。いずれ登録するかもしれないが。
本文
RPG黎明期を語る書籍を読んでいる。
TRPGとコンピュータRPGが未分化のまま相互作用し合っていた時代の文書を読むことで、ゲーム論方面での基礎体力を付けているところ(社会学はまた別にやる)。押井守『注文の多い傭兵たち』([1995]2004),多摩豊『次世代RPGはこーなる!』(1995)同『コンピュータゲームデザイン教本』(1990)などを再読していた。
そして今回読んだのはこれ。ずっと前から所持していて、何度か“見て”いたが、本腰入れて精読したのはこれが初めてとなる。
King, Brad and John Borland, 2003, Dungeons and Dreamers: The Rise of Computer Game Culture from Geek to Chic, Mcgraw-Hill Osborne Media.(=2003, 平松徹訳『ダンジョンズ&ドリーマーズ――ネットゲームコミュニティの誕生』ソフトバンククリエイティブ.)
- 作者: ブラッド・キング,ジョン・ボーランド,平松 徹
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2003/12/21
- メディア: 単行本
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年表を作る。本書で言及されていないタイトルも補完した。(マリオ以外の国産デジタルゲームタイトルは、ほぼすべて高橋が目安として挿入したもの)
関連年表
年 | 作品 | 主な制作者・ゲームデザイナー(特定できない場合は会社名) | |
---|---|---|---|
1877 | 蓄音機(フォノグラフ)の発明 | Thomas Alva Edison | |
1889 | 硬貨作動式蓄音機=ジュークボックスの発明*1 | Louis T. Glass and William S. Arnold | |
1897 | 陰極線管の仕組みが発見される | Karl Ferdinand Braun | |
1931 | Baffle Ball | David Gottlieb | |
1932 | Ballyhoo | Raymond Molony | |
1933 | Contact*2 | Harry Williams | |
1934 | Signal*3 | Harry Williams | |
1935 | Monopoly | Charles B. Darrow*4 | |
1947 | Humpty Dumpty*5 | David Gottlieb(社) | |
1952 | OXO(EDSAC) | A.S. Douglas | |
1954*6 | Diplomacy | Allan B. Calhamer | |
1958 | Tennis for Two | William Higinbotham | |
1961-2 | Space War! | Steve Russel and Tech Model Railroad Club(MIT) | |
1971 | Chainmail | Gary Gygax and Jeff Perren(Guidon Games) | |
1972 | ChainmailにFantasyの章が追加される | Gary Gygax | |
1971-3 | Star Trek(SDS Sigma 7 BASIC) | Mike Mayfield | |
1972 | Odyssey(Hardware) | Ralph H Baer | |
1972 | PONG | Allan Alcorn(and Nolan Bushnell) | |
1972 | Blackmoor(Dungeons & Dragons prototype)*7 | Dave Arneson | |
1974 | Dungeons & Dragons(RPGs) | Gary Gygax and Dave Arneson | |
1976 | Colossal Cave | Willie Crowther | |
1977 | Adventure(revised) | Don Woods (and Willie Crowther) | |
1977 | Dungeon(後のZork) | Marc Blank, Dave Lebling, Bruce Daniels and Tim Anderson | |
1977 | Traveller(RPGs) | Marc W. Miller | |
1978 | MUD | Richard Bartle and Roy Trubshaw | |
1978 | Rune Quest(RPGs) | Greg Staford | |
1979 | Akalabeth(Ultima) | Richard Garriott | |
1980 | Ultima I: the First Age of Darkness | Richard Garriott | |
1980 | Zork I | Marc Blank, Dave Lebling, Bruce Daniels and Tim Anderson | |
1980 | Rogue | Michael Toy and Glenn Wichman | |
1980 | 『パックマン』(アーケード) | 岩谷徹 | |
1981 | Wizardry | Robert Woodhead and Andrew C. Greenberg | |
1981 | Call of Cthulhu(RPGs) | Sandy Petersen | |
1981 | 『ドンキーコング』(アーケード) | 宮本茂 | |
1983 | 『ポートピア連続殺人事件』 | 堀井雄二 | |
1983 | 『ゼビウス』(アーケード) | 遠藤雅伸 | |
1983.07.15 | 『ファミリーコンピュータ』(Hardware) | 任天堂 | |
1984 | Raid on Bungeling Bay | Will Wright | |
1984 | 『ザ・ブラックオニキス』*8 | Henk B. Rogers(BPS) | |
1985 | 『スーパーマリオブラザーズ』 | 宮本茂 | |
1985 | Ultima IV: Quest of the Avatar | Richard Garriot(Scenario: Roe R. Adams III) | |
1985 | Bard's Tale | Michael Cranford and Interplay Productions | |
1985 | Habitat(Online) | Randy Farmer and Chip Morningstar | |
1985 | Balance of Power | Chris Crowford | |
1985 | Adventure Construction Set | Stuart Smith | |
1986 | 『ドラゴンクエスト』 | 堀井雄二(メインプログラマ:中村光一) | |
1987 | Wizardry IV: The Return of Werdna | Robert Woodhead and Andrew C. Greenberg(Scenario: Roe R. Adams III) | |
1987 | 『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』 | 堀井雄二(メインプログラマ:中村光一) | |
1987 | 『ファイナルファンタジー』 | 坂口博信・河津秋敏・田中弘道 | |
1988 | 『ドラゴンクエストIII そして伝説へ』 | 堀井雄二(メインプログラマ:中村光一) | |
1989 | CimCity | Will Wright | |
1989 | 『ソードワールドRPG』(TRPG) | 清松みゆき・水野良(グループSNE) | |
1990.11.21 | 『スーパーファミコン』(Hardware) | 任天堂 | |
1991 | 『ストリートファイターII』(アーケード) | カプコン | |
1991 | Sid Meier's Civilization | Sid Meier | |
1992 | 『天外魔境II 卍MARU』(PCエンジン) | 広井王子・桝田省治(プログラム:岩崎啓眞) | |
1992 | 『弟切草』 | 中村光一(脚本:長坂秀佳) | |
1992.12.19 | 『RPGツクール Dante98』 | エンターブレイン | |
1992 | 『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』 | 堀井雄二 | |
1992 | Wolfenstein 3D | id Software | |
1993 | DOOM | id Software(John Romero and John Carmack) | |
1993 | 『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』 | 中村光一 | |
1993 | 『バーチャファイター』(アーケード) | セガ | |
1994 | 『かまいたちの夜』 | 我孫子武丸・麻野一哉(・中村光一) | |
1995 | 『クロノトリガー』 | 旧スクウェア | |
1995 | 『タクティクスオウガ』 | 松野泰己 | |
1996 | Quake | id Software(John Romero and John Carmack) | |
1996 | 『サクラ大戦』 | 広井王子(脚本:あかほりさとる) | |
1997 | 『ファイナルファンタジーVII』 | 旧スクウェア | |
1997 | 『beatmania(ビートマニア)』 | コナミ | |
1997 | Ultima Online | Richard Garriott and Star Long | |
1997 | Diablo | Blizzard North社 | |
1998 | Half-Life | Mike Harrington and Gabe Neuwell(Valve Software) | |
1998 | Unreal | Epic Games | |
1998 | 『ゼノギアス』 | 高橋哲哉・田中弘道・加藤正人・種子島貴 | |
1998 | 『街――運命の交差点』 | 長坂秀佳 | |
1998 | 『ゼルダの伝説 時のオカリナ』 | 宮本茂 | |
1998 | 『CardWirth』(フリーソフト) | GroupAsk(斉藤・倉貫・赤塚) | |
1999 | 『俺の屍を越えてゆけ』 | 桝田省治 | |
1999-2000 | Counter-Strike | ミン・レー(綴り不明) | |
2000 | The Sims | Will Wright | |
2000 | 『高機動幻想ガンパレードマーチ』 | 芝村裕吏 | |
2001 | 『ICO(イコ)』 | 上田文人 |
キング&ボーランドのRPG史観(1961-2003)についての所感
ちょっち疲れたので箇条書きで。
- アタリ社の家庭用ゲーム機産業とは別に、70年代後半は「プログラムへの挑戦」、すなわちスティーヴン・レビーが『ハッカーズ』で指摘していたようなハッカー精神、ギーク精神のようなものが、指輪物語=D&D的な情熱と相互作用しつつ別のPCゲーム文化を駆動していた。PCでゲームを開発する、ということ自体が、ゲームオタクたちにとっての一種の“挑戦”たりえていたという側面が、どうもあったらしい。無報酬の悦び?
- Ultimaシリーズのデザイナーであるリチャード・ギャリオットと、後のスティーブジャクソンゲームズ社長(GURPSで有名)であるスティーヴ・ジャクソンとは、オースティン(テキサス大学)のSCA(創造的アナクロニズム協会)で一時期親交を結んでいる。さらにSCAでの活動は、どうやらU4の徳の概念に影響を及ぼしている(かもしれない)。
- 『ダンジョンズ&ドリーマーズ』にはWizの説明どころか、Wizardryの一単語も登場しない。オンラインゲーム、と限定した場合は必要ないのかも知れないが、これを素朴に“コンピュータRPG”の本として読んだ場合、相当の違和感があるつくりになっている。UltimaとWizを同時に並べて語るのに何か困難でもあったのだろうか。
- U4とWiz4の共通シナリオライターであるロー・アダムスIII世の記述がない。多摩豊(1990,1995)によれば、彼こそがTPRGにおける「第三世代型RPG」*9の傾向を作り、堀井雄二らDQ型RPGデザインに決定的な影響を与えた人物であると論じられているが、少なくともこの本にはロー・アダムスの紹介は一切ない。比較的重要な人物だと思っていたのだが……。
- ロー・アダムスの言及がない理由は以下が推測される。
- 著者がアダムスの存在を知らなかった。
- 著者がアダムスの存在を無視したかった。
- U4がアダムスの新機軸だ、という話にすると、話が整理できないから。
- アダムスの話をすると、Wizの話もしなきゃいけない気がして、それは面倒だったから。
- 他者からアダムスの話を抜きにして欲しいという要望があった(ギャリオット? まさかね)。
- 1990年代に入ってから、ギャリオット式のRPGは飽きられ、代わりに90年代FPSの時代が欧米では幕を開ける。その代表がDOOMでありQuakeであり、LAN接続で楽しまれるオンライン対戦である。プログラマ気質のカーマックが3Dモデリングの基礎エンジンを作り、それをロメロがデザインしたということらしい(もちろん、彼ら二人だけでDOOMが出来たわけではないが)。そしてDOOM以降に成立したMODカルチャーは、1960年代から連綿と続く「ソースコードの改造」のようなハッカー的ゲーム改造の文脈と整合している。
- FPSと、それに対する90年代アメリカゲーマーの盛り上がりを読んでいて、これはもしかして『ストリートファイターII』や『バーチャファイター』などの格闘ゲーム文化、それから『ビートマニア』などの音ゲー文化、“より速度を求められるアーケードゲーム”の文化が、日本におけるFPS的なものの代わりをしたのではないかと考えた。確かにそれは一時代を築いたが、海外におけるコンピュータRPGほどには、RPGの売り上げが廃れたわけではなかった。むしろDQやFFは、ゲームソフトの王道ジャンルとして確固たる地位を築いていく。
- 90年代後半にHalf-Lifeのヴァリエーションとしてカウンターストライクが作られ、MODカルチャーの性格はさらに強調される。(今、アメリカ型のゲーム開発が日本と比較して褒められるとき、良く出てくるエピソードではある)
- 一方で、ギャリオットがウルティマIXの開発を犠牲にしつつ、起死回生の策として提示した『ウルティマオンライン』は、リチャード・バートルが英国エセックス大学で発達させたMUD(マルチ・ユーザー・ダンジョン)のあり方をまったく新しい受け継ぎ方で展開し、いわゆるMMORPGと呼ばれるゲームジャンルの先駆けとなった。
- 本の著者は、この本の構成を「ロード・ブリティッシュ(ギャリオット)の伝記」してまとめようとしている(すくなくとも、ギャリオットがRPG開発史の主人公として若干ヒロイックに描かれる)。流れとしてはこんな感じ
- 1960' MITでコンピュータゲーム誕生
- 1970' D&Dの大流行, ADVゲームの登場, 英国MUDの誕生, その他コンピュータゲーム産業の勃興,ハッカー文化の時代
- 1980'ロード・ブリティッシュとコンピュータRPGの栄光時代
- 1990'前半 FPSの台頭とCRPGの没落、ネットワークゲームの時代
- 1990'後半 MMORPGとロード・ブリティッシュが一緒に帰ってきた!
- 2000〜 展望
- しかしこのような構成は、なるほどドラマチックではあるが、先ほど述べたロー・アダムスの貢献などがすっかり捨象されており、これでデジタルRPGの開発史を一覧したとは言えない(そもそもRoguelikeの話もほとんどないし……)
- 最後に付け加えた芝村&上田は、『ダンジョンズ&ドリーマーズ』の記述にはない。しかし、この二人は個人的にデジタルなRPGの歴史において重要な貢献をしているのではないかと考えている。しかし詳論は今回は述べる余力がない。
- それにしてもウィル・ライトのソロプレイぶりが際だっている。彼だけほかのゲームデザインと何の関連づけも持たないように見える。
- 21世紀の最初の十年(ゼロ年代?)において論じるべきゲームは色々あるだろうが、とりあえず以上。
- この年表から語れることは色々あるだろうが、私としては「ハッカー文化→道具としてのTRPGの性格→コンピュータRPGのデザイン思想の固定化→90年代MODが海外では普及したが、日本のデジタルゲームシーンではあまり影響を及ぼさなかった(RPGツクールという変種はあるが)→現在のデジタルゲーム産業の状況、という流れで何か論じられそうであるとは考えている。
- あとちょっとだけTRPGの話をすると、ギャリオットもバートルもロメロも、90年代前半に出てきたゲームデザイナーの大半は、エピソードを読む限りD&Dの薫陶を受けているようだ(DOOMの世界設定は、元はD&Dで亡びたキャンペーン世界を流用したものだそうな)。もっともDOOM以降のコンピュータゲームを遊んでいる世代はその限りではないが、そのあたりは「DQを遊んでいてもTRPGは知らない」という日本におけるRPG文化の断絶とちょうど一致しそうだ。日本のデジタルゲーム業界では輸入段階で10年速く断絶したが(サガシリーズの河津氏などは例外としても)、アメリカでも1995年前後で、デザイナーの基礎教養にパラダイムシフトが起きているような気がする。これはだいぶ憶測に過ぎないので、まあ眉に唾つけて聴いていただきたい。
ともあれ、「デジタルゲーム産業から見たロールプレイング・ゲーム通史」としては、記述のドラマチックさを優先したためなのか資料に取りこぼしが見られるものの、教科書的な役割を過剰に期待しさえしなければ、大変有意義なゲーム史本だったと思う。
このゲーマー側からの歴史を「裏」として、ほかの非ゲーマー的な観点からも役に立つ歴史として考えるは……やはりこの本を読まないといけないのだろうか。
- 作者: スティーブン・レビー,松田信子,古橋芳恵
- 出版社/メーカー: 工学社
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文献
Kent, Stephen L., 2001, The First Quarter: A 25-Year History of Video Games, B W D Pr.
赤木真澄,2005,『それは「ポン」から始まった――アーケードTVゲームの成り立ち』 アミューズメント通信社.
- 作者: 赤木真澄
- 出版社/メーカー: アミューズメント通信社
- 発売日: 2005/09/21
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*1:ここからフォノグラフパーラー→ペニーアーケードと続き、アーケードゲームの流れが出来る
*2:ピンボールに電子技術(エレメカ)を組み込んだことで歴史的に重要。
*3:Tiltの発明。
*4:その30年以上前から、非売品の原型モノポリーが出回っていたらしいが、販売したのはダロウ。
*6:商業出版は1959年。
*7:後、D&DでGreyhawkが提示された後の1985年にBlackmoorキャンペーン設定も復活することになったが、これはまだアーネソンが一人でミニチュアゲームのアイディアを暖めていた頃の名前として仮につけてある。
*8:事実上日本で始めて発売されたコンピュータRPG。デザイナーはWizのロバート・ウッドヘッドと友人だそうな。
*9:ここでは『ロールプレイング・ゲームの批評用語』で定義した世代論とはまた少し異なる。なぜなら多摩豊の世代論は、実はデジタル/アナログ両方に共通する世代論だからである。ここでは「第一世代=戦闘主体型RPG」「第二世代=(箱庭的な)世界主体型RPG」そして「第三世代=(背景世界だけでなく、特に)ストーリー主体型」という三分類で考えられる。たとえば、Wizシリーズでは、基本的に冒険者が善であるか、悪であるか、ダンジョンをどういう目的意識で攻略するかはプレーヤー自身の完全な自由に任せられていたが、Wiz4においては「キャラクター=ワードナ」であり、「目的=迷宮脱出」であった。これと同じくらい強力なシナリオ規定が、同じく彼が手がけたU4にも見出される。U4ではそれまでのウルティマシリーズとは打って変わって「善なるアヴァタールになるために八つの徳を集める」というシナリオ課題が与えられる。しかも最終的には、プレーヤーは悪人プレイが許されない(悪人として振る舞うと、クリアが困難となる)。ここにロー・アダムス的なRPG、ストーリーの傾向がデザインの段階で既に決まっているゲームの特性がある。そしてこのような「第三世代のコンピュータRPG」のデザインに対する批判は、押井守と多摩豊が、それぞれ異なる作法で行っており、興味深い。