「T&T7版の呪文ルール分析――ゲームスケールとキャラクターレベルの関係」
久々に個別システムの話。今回はT&T。
最近知ったのですが、『トンネルズ&トロールズ』第7版の呪文強化は、5版のそれとまるで違っています。
今回はそれを計算表込みで分析してみました。
たとえば5版の1レベル呪文、《これでもくらえ!》の呪文強化式は以下の通りでした。
【知性度】×【呪文強化レベル】
《これでもくらえ!》は1レベル呪文ですが、たとえば知性度【17】の魔法使いが、3レベル呪文として《これでもくらえ!》を書けたとき、17×3で51点のダメージを発生させました。
これでもまあそれなりに強いといえば強いです。T&T独特のルール「ショック効果」により、戦闘も有利に運ぶことができます。しかし、強力な攻撃呪文は、数レベル上にはいくらでもありますし、高レベルになっても魅力的な呪文である、とは言いがたいものがあります。
ところが、7版の《これでもくらえ!》は、どこかがおかしい。
7版の翻訳版ルールブックには、こんなことが書かれてあります。
キャラクターレベルが上がるにつれて、魔術師はより少ない魔力度で魔法をかけられるようになるだけでなく(22ページ参照)、呪文をより高い効果レベルでかけることができるようになります。ただし、消費するクレムは多くなります。より高いレベルで呪文をかけるなら、消費量は比例して増えていきます。具体的にどれだけ増えるかというと、「基本消費量×高めようとするレベル数」です。
〔中略〕
しかし、呪文の効果はふつう、1レベル高めるごとに、1つ下のレベルの2倍になります。
(アンドレ 2005=2006: 96)
さらに、《これでもくらえ!》を例に説明を加えています。
たとえば、知性度15の1レベル魔術師我、魔力度6点を消費して《これでもくらえ!》をかけるなら(杖は持っていません)、的に15点のダメージを与えます。消費量を12点にするなら(2レベルの呪文扱いにできます)、敵に30点のダメージを与えます。3レベルにしたければ、18点を消費し、60点のダメージを与えます。4レベルなら、24点を消費して、120点のダメージを与えます。
(同上)
……え?
ちょっとまって、これってつまり、こういうこと?
《これでもくらえ!》のレベル | 挑戦可能なキャラクターレベル | かけ率[x*2^(n-1)] | ダメージ値(基本15点) |
---|---|---|---|
1 | 1 | 2^(1-1)=2^0=1 | 15 |
2 | 2 | 2^(2-1)=2^1=2 | 30 |
3 | 3 | 2^(3-1)=2^2=4 | 60 |
4 | 4 | 2^(4-1)=2^3=8 | 120 |
5 | 5 | 2^(5-1)=2^4=16 | 240 |
6 | 6 | 2^(6-1)=2^5=32 | 480 |
7 | 7 | 2^(7-1)=2^6=64 | 960 |
8 | 8 | 2^(8-1)=2^7=128 | 1920 |
9 | 9 | 2^(9-1)=2^8=256 | 3840 |
10 | 10 | 2^(10-1)=2^9=512 | 7680 |
(注:上についてる「^」は、乗数を表しています。「2^3」は「2の3乗」という意味です。[x]は元となる魔法の効果値。[n]は呪文レベル。)
……あー。
どおりで7版のレベル上昇が、旧版と比べて厳しいわけだ。
キャラクターレベル10の《これでもくらえ!》は、もう何か別の名称で呼ばれるべき超絶攻撃魔法ですから、これはちょっと同じスケールで見られない。低レベル同士の争いならともかく、T&T7版の高レベル領域では、トーグの対数システムにも似たゲームスケールの整合が取られていると見て間違いないと思います。まあ、もちろん対数に直してないので、指数関数的にヤバいところだけ先にみえちゃうんですが、キャラクターレベルは潜在的に「対数関数的な強弱」を示していると考えられなくもない(もちろん、魔法の強化ルールに指数関数(2のn-1乗)が入っているからこそ通用する話で、キャラクターレベル全部がキャラクターの強さを対数的に表しているわけではないと思います)。
「9レベル魔術師は、いくら束になっても10レベル魔術師1人にかなわない」。そういう感じでしょうか。ある意味、特異点問題を解決しているかもしれない。T&Tはますます、凡人のゲームスケールもシステム中に保存したまま、「一騎当千」のキャラクターを手軽に遊ぶことができるシステムになっているようです(面白くデザインできるかどうかはさておき)。*1
ところで、T&T7版のキャラクターレベルのルールによれば、キャラクターレベルを決定する際の魔術師キャラのの参照能力値は【器用度・知性度・魔力度・魅力度】の4つ。
その4つのうち、「SR判定に成功するくらいの高い知性度」と「ほどほどの魔力度」があれば、《これでもくらえ!》10レベルは可能、と。
つまり、倍掛け可能なキャラクターレベルを高めるために知性度だけを上げまくると、《これでもくらえ!》の成長率は、こうなります。
《これでもくらえ!》のレベル | 挑戦可能なキャラクターレベル | かけ率[x*2^(n-1)] | 必要知性度 | 魔力消費量(補正なし) | 必要知性度にもとづくダメージ値 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 2^(1-1)=2^0=1 | 10 | 6 | 10 |
2 | 2 | 2^(2-1)=2^1=2 | 20 | 12 | 40 |
3 | 3 | 2^(3-1)=2^2=4 | 30 | 18 | 120 |
4 | 4 | 2^(4-1)=2^3=8 | 40 | 24 | 320 |
5 | 5 | 2^(5-1)=2^4=16 | 50 | 30 | 800 |
6 | 6 | 2^(6-1)=2^5=32 | 60 | 36 | 1920 |
7 | 7 | 2^(7-1)=2^6=64 | 70 | 42 | 4480 |
8 | 8 | 2^(8-1)=2^7=128 | 80 | 48 | 10240 |
9 | 9 | 2^(9-1)=2^8=256 | 90 | 54 | 23040 |
10 | 10 | 2^(10-1)=2^9=512 | 100 | 60 | 51200 |
つまり、知性度100で、魔力消費やクレム抵抗などの要件を満たしさえすれば、MR50000の敵を《これでもくらえ!》一撃で葬り去ることができるというわけですね。恐ろしいものです。《これでもくらえ!》はいつからFFの最終奥義になったんですか。*2
この7版から追加された魔法の効果アップルールは、いろんな面でマクロな〈ゲームスケール〉を再現可能なものになります。1段階レベルが違うだけで、同じ魔法名でもまったく違う意味をもつものとして使われる可能性があるというわけです(たとえば、一度に256体を召喚して2戦闘ターン、戦場を蹂躙する《骨よ、立て》9レベル(魔力消費90)とか、危険ですね。)。
7版には、5版の6レベル呪文にあった壁召喚がほとんど再録されていませんが、これもこの2乗のマジックを考慮した上なのかしら。私は5レベル呪文に入れたいと思ってるんですけれどね。5版の6レベル呪文を使うのに必要な冒険点が51000点で、平均的な魔術師(能力値ALL10)が7版の5レベル呪文を使えるようになるまでにおよそ46200点必要なので、だいたいスケールは合うかな、と。『Aの魔法陣』のファンタジー系再現データも、T&Tを意識した特技が沢山あるので、それも参考になりそうです。
また、T&T7版の呪文レベルは、途中から確率が壊れているなーとなんとなく思っていたのですが、解析したらどこの時点で壊れるかがわかりました。レベル9から10のあたりです。レベル9を過ぎたあたりで、知性度SR判定をする必要が突然失われるのです。「覚えられる≒ほぼ確実に呪文発動に成功する」という状況が発生するのは、10レベルからです。
呪文レベル | 知性度 | 器用度 | 要求SR(目標値) | SRダイス(要求される出目) | 最低必要冒険点 |
---|---|---|---|---|---|
Lv1 | 10 | 10 | SR1(20) | 10+2d6(出目10以上) | 0 |
Lv2 | 12 | 12 | SR2(25) | 12+2d6(出目13以上) | 4200 |
Lv3 | 15 | 15 | SR3(30) | 15+2d6(出目15以上) | 12000 |
Lv4 | 19 | 19 | SR4(35) | 19+2d6(出目16以上) | 25200 |
Lv5 | 24 | 24 | SR5(40) | 24+2d6(出目16以上) | 46200 |
Lv6 | 30 | 30 | SR6(45) | 30+2d6(出目15以上) | 78000 |
Lv7 | 37 | 37 | SR7(50) | 37+2d6(出目13以上) | 124200 |
Lv8 | 45 | 45 | SR8(55) | 45+2d6(出目10以上) | 189000 |
Lv9 | 54 | 54 | SR9(60) | 54+2d6(出目6以上) | 277200 |
Lv10 | 64 | 64 | SR10(65) | 65+2d6(出目[1・2]以外) | 394200 |
Lv11 | 75 | 75 | SR11(70) | 75+2d6(出目[1・2]以外) | 546300 |
Lv12 | 87 | 87 | SR12(75) | 87+2d6(出目[1・2]以外) | 739200 |
Lv13 | 100 | 100 | SR13(80) | 100+2d6(出目[1・2]以外) | 981000 |
したがって、T&Tは「神に近い冒険者」にでもなろうとしない限り、だいたい
あたりまでが、実際にゲームとして機能する範囲かな、と思いました。
ほかは大規模集団戦闘か「神々の戦い」レベルになるのかな。もちろん遊べるでしょうけれど、デフォルトの設計ではどこかで数値がぶっ壊れてそうな気がする。100万冒険点なキャラクターが一体どういう挙動を見せるのかまで解析できたらいいのですが。
さて、もともと私がどうしてこんな計算を始めたのかといいますと、T&T7版の成長ルールを改造するかどうかで悩んでいたからなのでした。
7版の冒険点は、能力値1つを100にするのにおよそ50万点、8つの能力値すべてに対しては400万点かかることがわかりました。(Google Spread Sheetで分析結果を公開しておきます。)
5版の冒険点で50万といえば、冒険者レベルは10ちょっとくらいです。しかし、5版の「50万点稼いだ冒険者」と、7版の「50万点稼いだ冒険者」とでは、単純に比べにくいものがあります。彼らを取り巻く魔法ルールやタレントルール、戦闘ルールまでも含めて、ゲームの形式が正確に一致しないからです。
しかし一つだけ言えるのは、最低でも50万から100万くらいの冒険点を数十回で稼げるセッションでもない限り、キャラクターレベル10のことを考える必要はあまりないということです。キャラ作成時にゾロ目が連続したり、成長で強くなったとしても、5から6あたり(能力値は40台から50台)で収まるでしょう。そうなると、先ほど示したキャラレベル5,呪文レベル9というのは、冒険点と照らし合わせてもだいたい適切な範囲と言えるのではないでしょうか。
現在私は、T&Tのオンラインキャンペーンのために、5版(素トン),HTT,7版のそれぞれのルールを比較解析している最中です。そこで最初、7版の成長ルールが壊れていると思って、10分の1から20分の1までに必要冒険点を下げて運用するつもりでしたが、そうするとロングキャンペーンではまたデータバランスが壊れてしまいそうです。
いろいろ悩ましいところもたくさんあるのですが、とりあえず今回は「冒険点を多めに提供するようなシナリオを作るが、成長に必要な冒険点の表は変えない」というジャッジを下して、使ってみることにします。
こういうシステム解析もたまには悪くないですね。計算ミスなどは必ず数個あると思いますが、どうぞご指摘いただければ幸いです。
余談ですが、T&T7版の「全能力100超えに相当する冒険者」は、T&T5版の「16レベル冒険者」に一応相当するようです。どちらも400万点前後の冒険点を稼がないとなることができません。
コメント応答
おお〜T&Tすげぇ。ソードワールドでもレベル10で遊ぶことはないし。アリアンがレベル10以上で一応遊べる形なのは案外すごいことなのか。
ちょっとその評価は私の今回のエントリの話とは少しズレるようです。
確かに『アリアンロッド』が成長ルールをうまく設計しているという話はよく聞きます。それはその通りかもしれませんが、それはD&D3.xの成長ルール設計と同じです。算術級数的な成長システムをうまく設計しているということでして、今回のT&Tのように幾何級数的な成長が認められるゲームシステムと比較して「『アリアンロッド』が良い」という比較は、双方のシステム評価に対して不適切かと思います(そういうことを言っているわけではないのは承知してますが、そもそも比較が難しいと私は思ってるんです)。
たとえば算術級数的な成長システムを持つD&Dでもゲームスケールのジャンプがないかというとそんなことはなくって、秘術魔法(ファイアボール,ディメンジョンドア,テレポートなど)のレベルがゲーム中でどのような位置を占めるかによって、ゲームスケールが飛躍するような状況はいくらでもあります。算術級数的成長ではいかんともしがたいところを、上級クラスの特殊能力や追加特技、各種高レベル呪文の破壊的スケールジャンプで補っているという見方もできます。そうなると、挙動がレベルの途中からまったく変わってくる可能性も出てくるわけです(D&Dは遊んでいる限りは、むしろその破壊が「成長」と感じられるよううまくクラス設計がされているので、問題ないのですが、全サプリメントを適用した場合どうなるかまでは専門家ではないのでわからない)。
したがってむしろ『アリアンロッド』で検証すべきは、追加特技でどのようにスケールジャンプを行っているか、またそのスケールジャンプはどれだけ(D&Dにおける強力な魔法のように)成長の手応えを感じさせているのか、スケールジャンプがまったくないとすればそれはどういう設計に基づくものか、といった分析をした方が良いと思います。
『アリアンロッド』が、海外の算術級数的成長システムを高度に体現している『D&D』と比べて、(その価格帯に対する品質の良さも含めて)どのように成長システムが整備されているのかを評価することは重要だと思いますので、誰かにやって欲しいと思っています。
T&TではなくARAの話になってしまいましたが、ともあれ成長システムの評価に関しては「優劣がある」というより「設計思想が違う」と言った方が正しいと思います。その上で、それぞれの適切な動かし方があるんじゃないかというお話なのでした。
知人がソードワールド45レベルで次元間戦争ものをしていたのを思い出した。
私もそれ聞いて、GURPSで10,000CPのキャラクターを何百枚も作成していた人を思い出しました。
やばいですねー90年代の遊び込みは。そういう無茶にも対応が効くような成長ルールが増えたのは嬉しい限りです。