GOD AND GOLEM, Inc. (はてなダイアリー倉庫版)

2007-2012まで運用していた旧はてなダイアリーの倉庫です。新規記事の投稿は滅多に行いません。

「子どもたちがガンガン犯行予告をする時、オトナたちは既に負けている」(序・てきとう)

 二日前のインタビューでワッツはいった。これがワシントンの問題だ:“説明しているなら、すでに負けている”。
 説明しているなら、既に負けている。
 バンパーステッカー文化だ。もし理解するのに三秒以上かかるようなら、すでに圏外。理解するのに三秒、でなければ負け。これがわれわれの問題だ。
レッシグ2002,「OSCON2002基調講演<フリーカルチャー>」)


 昨日書いた日記があまりにも長いことに気づき、自分でもちょっと退いた(鏡さんはもっと引いただろうと思う)。
 ちょっと反省して、今日は短く。
 本当はAgさんやSak君が論じていた「小学生が犯行予告ガンガンやることの*1意味」についてやりたいのだが、今はWordのアウトライン機能で整理を淡々と続けているところだ。なにしろ、社会学と関係のある倫理学を整理するための思考時間が今圧倒的に足りていない。もっと勉強したい。

 しかし、とりあえずプレビューだけでもつくっておこう。
 ことの発端は、低年齢層に対する情報管理の強化に関するITmediaのニュースだ。

■「小学生が殺害予告」相次ぐ ネット犯罪が低年齢化
 埼玉と福岡で小学生がネットで「殺害予告」をするというショッキングな事件が発覚した。これまで被害者になることが多かった世代が、自ら加害者になるケースが急増しているという。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/06/news006.html

 これについて、Muichkineさんが、ゲーム理論の〈ナッシュ均衡〉を使った議論を始めたのが、はてなブロゴスフィアの一角における議論の始まりとなった。
 このアイディアは、創造科学者に対するフライングスパゲッティーモンスター教のような面白さがあると思い、私はブクマコメントに「見てみたい」と書いた。しかし、倫理学的な見地から政策レベル、行為レベルで問題を追ってみると、事態は「面白い」だけでは済まされない、教育学・政治学・古典倫理学・刑法学・メディア論・情報社会学など、さまざまな問題意識から切り取れそうな問題群が噴出したのであった。
 さて、政策論には、大まかに分けて、2つのレベルがある。

  • 将来にありうる不都合な未来を想定し、それを回避するための理念モデルを、世のため人のため長期的に作り続ける政策論。
  • 完全に現状認識から出発した時に取りうる有効な解決策を、世のため人のため短期間で作り実施する政策論。

 このどちらが劣っていて、どちらが優れているということはない。同時に両方考えられる天才がこの世の中に圧倒的に少ないから、どちらかを一生懸命考える人が出てくるだけで、両者は共に尊敬されねばならない。フェンダーストラトキャスターがなかったらジミヘンはいなかったし、ジミヘンがいなかったらフェンダーストラトキャスターは今ここまでバカ売れしていない。互恵関係、二人三脚、そういうものだ。どこの文化でも、大体ホントにそんなものだ。
 それを忘れて、己の倫理観をむき出しにした、その実エゴイスティックな論理によって「怖いからやめろ、現実的に考えろ」といいだすことこそ、一番恐ろしい事態を招くコトバである。このことは、ぜひとも最初に確認させていただきたい。
 また、ここにURLを紹介した人たちは、誰もがそうした陥穽とは(少なくとも、今回のエントリに関しては)まったく無縁な人たちである。その点については、安心してお読みいただければと思う。
 ところで、私は主にi-Agさんのところで自説を述べている(特にここここ)。
 そのついでに教えていただいたのだが、i-Agさんが考えている問題意識は、私が以前に執筆した2006年のネタコラム「ロジハラ!」と関係しているのだという。
 一読していただいてからの方が、以下の極端な主張の数々に対し、むやみに憤慨せずに済むこと請け合いである。みんな彼らなりのロジカルな方法論を持ち寄って切り結んでいるので、どうぞ一緒に最後まで一走りしていただきたい。「空気嫁」とか言わないで戴きたい。むしろ読者が空気読んだ方が面白い議論だって、この世にはたくさん存在するのだ。

■ドーピング剤としての高橋志臣2006「ロジハラ!」
http://www012.upp.so-net.ne.jp/gginc/arc_logihara.html

《「犯行予告と情報倫理」エントリ一覧》
■Muichkine, 2008.03.04「小学生はガンガン犯行予告とかすればいいと思うよ」
http://d.hatena.ne.jp/Muichkine/20080304/1204640744
■i-Ag, 2008.03.06「冗談でもそういうこと言うなよ、と思うときがあるんだ。」
http://d.hatena.ne.jp/i-Ag/20080306/p1
■sakstyle, 2008.03.07「ゲーム的罵倒語」
http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20080307/1204882527
■i-Ag, 2008.03.07「だから冗談でもそういうこと…って思うときがあるんだ。」
http://d.hatena.ne.jp/i-Ag/20080307/p1
■klov, 2008.03.09「小学生はガンガン犯行予告とかすればいいと「ある意味で」思うよ。」
http://d.hatena.ne.jp/klov/20080309/1205047334
■min2-fly, 2008.03.09「小学生は犯行予告とかすんな。絶対すんな。」
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080309/1205084462
■sakstyle, 2008.03.09「小学生はガンガン犯行予告とかすればいいと『本気で』思うよ」
http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20080309/1205033523
■i-Ag, 2008.03.09「やっぱ犯行予告はよくないよ…って思ったんだ。」
http://d.hatena.ne.jp/i-Ag/20080308/p1

■i-Ag, 2008.03.09「対ロジハラ的反応?」
http://d.hatena.ne.jp/i-Ag/20080310/p1
■yukioino, 2008.03.10「子供はいつでも大人が考え付かないようなことをする。」
http://d.hatena.ne.jp/yukioino/20080310#1205126070
■i-Ag, 2008.03.11「犯行予告関連エントリ と 乙一感想文を応援できなかった私」
http://d.hatena.ne.jp/i-Ag/20080311/p1

 ちなみにタイトルの由来は、ローレンス・レッシグの3秒ルールから。連載がうまく続き、完結するのだとすれば、最終的には「敢えて、空気読まない」の力をどう確保するかという話へと収斂していくと思う。

*1:ゲーム理論的/功利主義的/義務論的/文学的/情報社会論的な意味がそれぞれ考察できると思うのだけれど、これはたぶんちゃんとした理屈で整理したら連載10回くらいのレベルになるので、ちょっとやそっとじゃ手がつけられない。