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山川悟2007『事例でわかる物語マーケティング』

 10月上旬、「入院記念」*1に献本していただきました。
 「物語論的アプローチ」とかに萌える人、どうぞ購入してみてください。

事例でわかる物語マーケティング (SeriesMarketing)

事例でわかる物語マーケティング (SeriesMarketing)


 この本は、福田敏彦『物語マーケティング』(竹内書房新社,1990年)の議論を下敷きに、〈ナラティヴ・プランニング〉という企画技法について概説したものである。

 ここでいう「物語マーケティング」とは、文芸批評でいうところの〈物語構造主義〉の知識を援用しつつ、さまざまな企画立案を物語的に練り上げてプレゼンや商品開発の現場にまで持っていく技術のことだ。世界中で伝統的に磨き上げられてきた「成長・成功の物語」の黄金パターンを、さまざまな商品開発の変数にあてはめていくことで、アイディアを具体的な形にしていくのである。

補足:正確には、著者の言う〈ナラティヴプランニング〉は以下の条件を満たしたプランニング技法のことを指す。

  • 通常のコンセプトワークの延長作業として、マーケターがブランドコンセプトを表現する「物語」を創作する。
  • その物語においては、「典型的なターゲットユーザー」としての主人公が、「商品・ブランドを使用するシーン」が登場する。
  • この物語の存在によって、関係者の間でブランド理解を深めたり、消費者に対するブランドコミュニケーションの効果を高めたりすることができる。

(山川2007: 94)
 ここで山川は「マーケターが作家になる」ことが、〈ナラティヴプランニング〉の特徴だと述べている。

 福田(1990)はもう少し〈物語構造主義〉の理論的なところに寄っていたが、この本は「事例でわかる」と銘打たれているだけあり、誰もが知っているCMや映画などの話を中心に、わかりやすく説明しようとしている。そのため、「企画開発現場における有効性」がかなり率直に伝わってくる紙面構成になっている。「定量的でなければマーケティングではない」という社会通念を覆すような勢いがある。

記号論やら文芸批評本やらを掘り返す手間を省いて、すぐこの類の方法を実践に移したいという人には、うってつけの本だ。キャンベルの本を読むくらいなら、この本を読んだほうが早い。

 ちなみにこの『物語マーケティング』を実践するにあたっては、「物語構造」に対する絶対的な信頼が必要だ。いいかえれば、「主人公は困難を克服すべきである」という展開を我々は“面白い”と思うからこそ、この方法は企画創出の方法論として認められるのである。
しかし、その「物語」が示す主張が本当に正しいかどうかを、「物語」それ自身はまったく保証してくれないことに、注意が必要だ。この本の欠点は、そうした「物語的な説得力の危険性」についてほとんど触れていないことかもしれない。

 こうしたマニュアル本だからこそ、「物語を扱うことの根本的な政治性」について自覚を促す文面くらいは、あってよかったのではないかと思う。

 何が「正しい説得」なのか考え込んでしまうほど、強力な本である。

 余談だが、「コラム:二次創作」の冒頭でラヴクラフト神話にちゃっかり触れているところが、この手のマニュアルにしてはマニアックだな、という感じがして非常に楽しめた。

 以下はBlog用のおまけ。

■関連図書(国内物語マーケティング関連)

物語マーケティング

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定本 物語消費論 (角川文庫)

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コンテンツマーケティング―物語型商品の市場法則を探る

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サブカルチャー反戦論 (角川文庫)

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■物語構造主義系統の古典(一部)*2

アリストテレース詩学/ホラーティウス詩論 (岩波文庫)

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魔法昔話の起源

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神話の力

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構造意味論―方法の探求

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*1:病院ではないが、似たようなもの。

*2:読むのはどれもしんどいけど、まあ古典ですので。