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060708_『陰陽師は式神を使わない』─陰陽道馬神流解説

陰陽師は式神を使わない (集英社スーパーダッシュ文庫)

陰陽師は式神を使わない (集英社スーパーダッシュ文庫)



陰陽道馬神流」とは、作家・藤原京が『陰陽師式神を使わない』の中で発表した、創作易占の体系である。
実占には6個の色分けされた6面体サイコロと、市販されているその年の詳細な暦注が必要となる。通常の周易における「本卦」「之卦」に加え、暦注の独自解釈から引き出される第三の卦「天卦」を加えて占うのが最大の特徴。

通常の易占と陰陽道馬神流の違い


易占においては通常、「本卦(ほんか)」とその変爻より導き出される「之卦(しか)」の2つの大成卦を算出し、さらにその結果を『易経』の記述から解釈するのが普通である。これは「命」「相」「卜」のうちとりわけ「卜」の要素が強い。


しかし陰陽道馬神流においては、それにさらに「天卦(てんか)」という、個人にとどまらない天地自然の「命」を表す卦を新たに考案している。「天卦」を「本卦」「之卦」の前に算出しておき、それを天地自然の「命」とすることで、「本卦」「之卦」における「卜」をより明快に実践することができる、というわけである*1


ところで「天卦」のシステムは、現代易占の流派にはほとんど存在しない創作である。これはあとがきにおいて言及された何がしかの江戸時代の資料によるものか、藤原氏自らが家庭暦を熟読しているうちに考案した全くの創作かのいずれにせよ、『陰陽道式神を使わない』以外にはほとんど普及してしない占法であることを留意されたい。

天卦の算出法


「天卦」とは、ありていに言ってしまえば、暦占いの一種である。家庭暦で確認できる諸要素の複合が、8×8=64の大成卦を形作る。


以下、第一巻p213~217の記述を参考に、天卦の算出方法を要約する。


天卦は、内卦*2と外卦*3を別に考えたほうがわかりやすいため、以下では内外それぞれの八卦の生成を分けて説明する。


A.内卦


A−1.年月日の偶数奇数で陰陽を決める

  • 第三爻:その「年」の十干*4が兄(奇数)なら陽、弟(偶数)なら陰
  • 第二爻:その「月」の十干が兄(奇数)なら陽、弟(偶数)なら陰
  • 第一爻:その「日」の十干が兄(奇数)なら陽、弟(偶数)なら陰


例A−1:2006年03月08日(「丙戌」年「辛卯」月「丙申」日) の場合

  • 第三爻:丙=火の兄(ひのえ)=陽
  • 第二爻:辛=金の弟(かのと)=陰
  • 第一爻*5:丙=火の兄(ひのえ)=陽

これをあわせると


九三───
六二─ ─
初九─── *6


こうしてできた内卦は、中央だけが陰で、その間を陽が挟んでいる。
この記号を八卦では「離(火)」と呼ぶ。
これで、卦の半分が定まったといえる。


A−2.十干の五行が「相生(木火土金水)」「相剋(水金土火木)」の関係にあるか見る。なお、陰陽道馬神流の「五行相剋」は、現在流布している相剋説(木土水火金)とは関係がまったく異なるので注意が必要である。


例A−2:2006年03月08日(「丙戌」年「辛卯」月「丙申」日)の五行である火と金は「相生」でも「相剋」でもないので変爻は無し。


A−3.年月日の干支で、同じ十二支が2つ重なった場合は、その仲間外れの干支の爻が変更する。


例A−3:2006年03月08日(「丙戌」年「辛卯」月「丙申」日)のうち十二支は「卯」「申」「戌」でばらばら。よって変爻はなし。


以上より、内卦は変爻無しの「離(火)」卦で確定した。


B.外卦


B−1.四爻を求める


四爻はこれまでとは違い、暦に見られる3つの要素から導き出す。だがこの3つの解釈方法も、基本的に擲銭法*7に同じ。全陰なら老陽(九)、全陽(筮竹でいう9×4)なら老陰(六)、陰が1つだけなら少陽(七)、陽が1つだけなら少陰(八)となる。


ちなみになぜ全陰なのに「老陽」なのかといえば、筮竹でやる本格的な易占*8では、取った筮竹の数が「少ない(陰である)」のが三連続で続いた時、筮竹の残数がちょうど9の4倍、すなわち36に必ずなるからである。全陰を「残数が極端に多い=陽が強い」と筮竹使用時と同じように考えると、違和感はなくなるだろう。


話を元に戻す。


四爻の陰陽の要素は以下の3つである。

  • x:「日出・日没」(日没まで陽、日出まで陰)
  • y:「満潮・干潮」(満潮まで陽、干潮まで陰)
  • z:「六輝」(先勝−先負/友引−赤口/大安−仏滅)


一日中にxの陰陽が切り替わる回数は2回で一定。
一日中にyの陰陽が切り替わる回数はだいたい3〜4回(干潮と満潮はほぼ毎日2回ずつある)。
一日中にzの陰陽が切り替わる回数は1回。ただし六輝のうち大安と仏滅だけ全日陽(大安)全日陰(仏滅)であり0回となる。


したがって四爻が一日中に変ずる機会はだいたい5〜7回である。特に潮の干満による変化は激しい。手元に家庭暦がなければ、算出することはきわめて困難である。


例B−1:2006年03月08日午前4時ごろの四爻

  • x:日出時間06:02前(陰)
  • y:AM08:29に満潮予定(陽)
  • z:仏滅(陰)


したがって「陰陽陰」。二陰一陽につき、「少陰」となる。


六四─ ─




B−2.五爻を求める


五爻は太陽(金烏)の勢いに象る*9。がしかし、月と土用の影響も受ける。


基本的に春分前までは陰、秋分前までは陽である。


しかし月が朔(新月)ないし望(満月)となる3日前後は、陰陽が逆転する。
土用の時期も同様である(土用中の間日だけは逆転しない)。


例B−2:2006年03月08日は春分(03月21日)の前であり陰。望の三日前後(14−16)には当たらないため変化せず。春の土用(04月17日)にも含まれないため変化せず。 したがって陰のまま。


六五─ ─




B−3.上爻を求める


上爻は月(玉兎*10)の動きを見る。
擲銭法と同じく3つの陰陽で判断するが、このうち2つの陰陽は「月の満ち欠け」で求める。

  • α.上弦から満月まで(陽陰)
  • β.満月から下弦まで(陰陰)
  • γ.下弦から新月まで(陰陽)
  • δ.新月から上弦まで(陽陽)


これに


ω.旧暦の日付(奇数なら陽/偶数なら陰)


を加えれば3つの陰陽が出る。あとは擲銭法に同じである。


例B−3:2006年03月08日はα(上弦07日から満月15日までの間)にあたり陽陰。
03月08日は旧暦02月09日にあたる。奇数に付き陰。
したがって陽陰陽。陰が1つのため少陽。

これで3つの爻が出揃い、外卦が求まった。


上九───
六五─ ─
六四─ ─


外卦は艮(山)であることが判明した。




C.内卦と外卦をあわせて大成卦を求める


大成卦は6つの爻が合わさったものである。


例C:内卦は離(火)、外卦は艮(山)。
あわせると山火賁(さんか・ひ)の変爻なしとなる。
ちなみに賁は「文飾する、着飾る」の意である。


変爻が無い場合は、その特徴がいよいよ強いという意味を表し、裏卦(本卦の陰陽をすべて逆転させた卦。この場合は沢水困。行き詰まりの卦)の卦辞を確認することが多い。


この時間帯は悪趣味な飾りが世の中を覆っており、したがって遠からず行き詰まる、という象を読み取るべきだろうか。

まとめ:天卦「山火賁」


上九 ─── (月の運行/旧暦日付)
六五 ─ ─ (太陽の春分秋分/月の朔望/土用)
六四 ─ ─ (太陽の出入り/潮の干潮/六輝
九三 ─── (十干の「年」/相生・相剋/十二支)
六二 ─ ─ (十干の「月」/相生・相剋/十二支)
初九 ─── (十干の「日」/相生・相剋/十二支)


内卦は一見変動が少ないように見えて、五行と十二支の組み合わせ次第では変爻が頻繁に起こりうる。しかし、理解するのは(相剋が誤解しやすいことを除けば)比較的容易だろう。


問題は外卦である。第一に、家庭暦を徹底して遊んでいるため、手元に家庭暦がなければ馬神流式を実践することはほぼ不可能に近い。馬神流実践のためには買わざるを得ないだろう。


第二に、四爻の出し方があまりにもややこしい。一日に何度変動するか、いちいち確認するのも面倒になる可能性が高い。その分、暦とは仲良しになれるかもしれないが、もしかしてそれも藤原氏の策略なのだろうか。


天卦の移り変わりについては、今後続けて調査していくつもりである。とりあえずは、本日午前0602(日の出)を境に天卦は離為火となり、続けて0829を境に再び山火賁に戻る。本日中は、四爻が点滅を繰り返すのみであろう。

参考文献


平成19年高島本暦

平成19年高島本暦

*1:詳しくは第一巻p184以下を参照

*2:一番下の初爻から第三爻までの前半三本線のこと。

*3:第四爻から上爻までの後半三本線のこと。

*4:〈十干〉:10×12の組み合わせで成り立ついわゆる〈干支〉のうち、〈十二支〉ではない10通りの単漢字の配列を十干〔じっかん〕という。東洋占術では主に、五行の性質を表わすために用いられ、また戦前の日本では成績や兵隊としての適性に「甲種」「乙種」という風に使用された歴史もある。配列は甲乙丙丁戊己庚辛壬癸〔こう・おつ・へい・てい・ぼ・き・こう・しん・じん・き〕である。これは2つごとに木火土金水〔もっかどごんすい〕を表わしており、それぞれ木行が甲乙〔きのえ・きのと〕、火行が丙丁〔ひのえ・ひのと〕、土行が戊己〔つちのえ・つちのと〕、金行が庚辛〔かのえ・かのと〕、水行が壬癸〔みずのえ・みずのと〕と対応づけられている。

*5:本来は「初爻」と読むが、わかりやすさを優先した。

*6:易占では、最下の1番目から最上の6番目までの六爻の陰陽をそれぞれ陽数(奇数)である九〔きゅう〕と、陰数である六〔りく〕に置き換えて表わすのが慣例である。初爻から順に「初九・九二・九三・九四・九五・上九」、あるいは「初六・六二・六三・六四・六五・上六」と表現する。なお、最下の爻は一ではなく「初」を、最上爻は六ではなく「上」をあてる。

*7:儒教においては聖人の一人とされる周の文王が用いていたとされる易占法の一種。3枚のコインを6度放り、そのそれぞれの結果から六爻を導き出す方法であり、大変簡単だが、結果の出方は、易占でもっとも本格的な占法とされる「十八変筮法」〔じゅうはちへんぜいほう〕とほとんど変わらないため、素人にとって解釈が大変難しくなるという欠点もある。

*8:前の注でも述べた「十八変筮法」のほか、「中筮」や「略筮」といった方法がある。ちなみにこれは周易に限った話であって、他の流派の易占法まで取り上げるときりがないため、ここでは取り上げない。

*9:東アジアの古代神話では3本足の烏は太陽黒点を象徴するとされている。サッカー日本代表のシンボルマークに採用されているヤタガラスも、この神話の延長線上にある

*10:もちろん、月面にみえるウサギさんの比喩である。太陽をあらわす烏とあわせれば「金烏玉兎集」となる。これが安倍晴明の著作名となる。